2014 Rd.2 MALAYSIA

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 ありとあらゆるチームのエンジニアやメカニックが忙しなく行き交う決勝直前の喧噪の中、浜島裕英はフェラーリのピットガレージ前で最終コーナーの遙か遠くを厳しい目つきで睨んでいた。

 マレーシア気象庁発表の天気予報では、午後は雷雨のマークが並んでいる。本当にそんなことになれば、決勝はどうなることか。しかしチームが手にしていた最新の予報では、事情は違っていた。

 少し黒く曇った遠くの空を見ながら、浜島は言った。

「サーキットから30kmのところで雨雲ができてる。ほら、あれはもう降ってるでしょ? でも今の風速は5km/h。そのままならレースの最後に降るか降らないかというくらいだよ」

 グリッド上では、15分前のシグナルが鳴った。首にタオルを巻いて汗を拭うドライバーたちが徐々にコクピットへと戻り始める。

 そういえば去年はこのグリッド上で雨が降りだし、難しいダンプコンディションでのスタートでフェルナンド・アロンソがフロントウイングを失って戦列を去った。

 今週は金曜も土曜も夕方に豪雨が襲来し、セパンを濡らしていた。特に予選は50分にわたって開始がディレイするほどの長い雨だった。決勝も雨がドラマを呼ぶのか、それとも雨よりも先にF1マシンたちの方が305kmを走り切ってしまうのか。

 FIAが提供する気象レーダーには、レース中の降水確率は30%と表示されている。しかし天気予報など全く宛てにならないのがこのマレーシアだ。

「問題は降るか降らないかではなく、いつ降るかだ」

 誰しもがそんな名言を脳裏に思い起こしながら、いよいよ決勝スタートの時間を迎えた。

 フォーメーションラップを終えて、メルセデスAMGの2台がグリッド1列目・2列目のイン側に就く。フロントロウのアウト側、レーシングライン上にはセバスチャン・フェッテルがいる。

 後続のペースが遅く、グリッドが整うまでにいつもよりも長い時間がかかる。しかしそれでも、メルセデスAMGとルノーのパワーユニットが音を上げることはなかった。

 

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 5つのレッドシグナルが消え、21台のマシンが一斉に加速して行く。セルジオ・ペレスのマシンだけはガレージを後にすることができず、彼はすでにマシンを降りている。

 スタート加速、そして時速100kmを超えてMGU-Kのブーストが効いてからは、ルノーよりもメルセデスAMGのパワーユニットの方が圧倒的な加速力を見せる。ニコ・ロズベルグはフェッテルの右に並びかけ、ピットウォールの側へと牽制するフェッテルの動きにヒヤリとしながらも、スロットルを緩めることはなく真っ直ぐに駆け抜けて2番手を奪い取った。

 その動きを冷静に見ていたダニエル・リカルドは、ターン1で僚友フェッテルのインを窺い、イン・アウトが逆転するターン2では大外からターン3の加速重視でインへと真っ直ぐに立ち上がってフェッテルを抜き去った。ロズベルグはターン3の立ち上がりで派手にリアを流したが、なんとか持ちこたえて2位を死守。首位ハミルトン、2位ロズベルグ、3位リカルド、そしてフェッテルはスタート直後の攻防の中で4位まで後退してしまった。

 その後方ではニコ・ヒュルケンベルグが開幕戦を彷彿とさせるようなアロンソとの攻防を繰り広げ、キミ・ライコネンは2周目のターン2へのアプローチで不用意にアウト側へラインを変え、後方にいたケビン・マグヌッセンに接触されてしまった。

「右リアタイヤがパンクした!」

 左翼端板を大きく壊したマグヌッセンにはさらに5秒ストップペナルティが科せられたが、スロー走行でピットへ戻らなければならなくなったライコネンもまた上位争いからの脱落という大きな代償を払うこととなった。

 首位に立ったハミルトンはファステストラップを記録しながら後続を引き離していく。しかし、不必要にプッシュしすぎるようなことはしない。

「ルイス、ニコ(・ロズベルグ)はリアタイヤに苦しんでいる。タイヤをいたわるのを忘れるな」

 レースエンジニアからも警告のメッセージが無線で伝えられる。ハミルトンはプッシュの手を緩めたものの、2位ロズベルグとの差はじわじわと広がっていく。

「あと何周?」

 ミディアムタイヤで第1スティントをあと何周走るのかを問い掛けるロズベルグに対して、レースエンジニアは「あと8周」とプランを伝える。

「多すぎだよ!」

 リアタイヤの熱ダレに苦しむロズベルグは、それでも4周目にチームメイトと順位を入れ換えて3位に上がってきたフェッテルとのギャップを4秒前後に維持している。

 

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「ルイス、ターン15ではトラクションをイージーにしてくれ。そんなに心配するほどではないけどね」

 メルセデスAMGは金曜フリー走行のロングランのデータから、リアの熱ダレを警戒している。逆に3位・4位に控えるレッドブルはロングランのデグラデーションが優れていた。しかし、メルセデスAMGとてフルにプッシュしなければリアタイヤのタレを抑えることは可能だ。

「ルイス、燃料マネージメントでは良い仕事をしている。とにかくプッシュしろ。でもタイヤもいたわらなきゃいけない」

「さっきのラップは(ターゲットよりも)0.2秒速かったぞ。あとは(ピットインの)ウインドウがオープンになるのを待つだけだ」

 メルセデスAMG陣営は自分たちのスピードを良く理解している。マシントラブルやタイヤのデグラデーションなどの突発的な外的要因さえなければ、純粋なパフォーマンスという点で、自分たちに敵うチームがいないことも。

 11周目、5位アロンソがピットインしたのを皮切りに上位勢の最初のピットストップが始まる。

 翌周に4位リカルドが反応してピットインし、アロンソの直後でコースに復帰。しかしニュータイヤのグリップを生かしてターン1でインに飛び込み、ターン2のアウトから3のインへと、1周目にフェッテルを攻略したのと同じようにアロンソを抜き去って、なんとかアンダーカットを阻止して見せた。しかし、タイヤのデグラデーションが大きいだけに、ニュータイヤ投入の威力が大きいことは明らかだった。

「デフォルトマップ13、デフォルト・ワン・スリーだ」

 フェッテルに飛んだその指示は、1年前の“マルチマップ21”と同じように、「カーナンバー1・3の順番でコースに戻す」という意味だったのだろう。翌13周目にピットインしたフェッテルは難なくリカルドの前でコースに復帰した。(2/3に続く)

 

(text by 米家 峰起 / photo by Wri2)

 

 

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