RACE【レース】

20140413-07

 

「ルイス、パディ(・ロウ)だ。レースはあと約10周だ。確実に2台揃ってクルマを持ち帰ってくれ」

 技術面のエグゼクティブディレクターであるパディ・ロウが直々に無線で伝えた。一語一語、ゆっくりとしたその言葉には、ロウ始めメルセデスAMGのチームスタッフたちの気持ちを強調し、ドライバーたちにしっかりと感じ取って欲しいという思いが込められていた。

 全く同じメッセージが、2位番手にいるロズベルグにも伝えられた。

「オーケー、分かったよ!」

 47周目にレースが再開されるなり、その言葉がウソだったかのように2台のメルセデスAMGは激しいバトルを繰り広げた。

 ターン1をサイドバイサイドで抜けると、ターン4でも2ワイドのままコーナリングして立ち上がっていく。タイヤのグリップで劣るはずのハミルトンはなんとかこれを抑え込んで首位を守り、2台のメルセデスAMGは3位のペレス以下よりも1周で2.5〜3秒も速い驚異的なペースで後続を引き離していく。

 後続ではリカルドがストレートでDRSを使ってフェッテルをオーバーテイクし、さらにフォースインディア勢から3位を奪い取ろうと奮戦する。

「ストレートがすごく遅い。トウ(スリップストリーム)を使ってもまだストレートでタイムロスしているんだ」

 フェッテルはパワーユニットが完調ではないようで、再びリカルドに前を譲ることになった。その直後のターン4、翌周のバックストレートで挽回を試みるが、リカルドの方に優位があった。リカルドは53周目にヒュルケンベルグをパスし3位ペレスに迫るが、フォースインディア勢も全開でプッシュしている。

「リカルドは0.5秒速いペースで追いかけて来ているが、このままなら追いつきはしない。君はとても良い仕事をしているよ」

 ペレスはそのままリカルドを振り切り、3位でチェッカーを受けて表彰台を獲得した。チームにとっては2009年ベルギーGP以来2度目の、そしてペレス自身にとっては2012年イタリアGP以来の久々の表彰台。昨年マクラーレンで味わった辛酸を払拭する快走だったと本人も笑顔を見せた。

 フェッテルはウイリアムズ勢に追われ、さらにフェラーリ勢まで従えて6番手争いは5台による数珠つなぎとなった。56周目にはマッサがターン4で仕掛けあわやという場面もあったが、フェッテルは落ち着いて立ち上がりで逆転し、最後まで6位を守り抜いた。

 そして、メルセデスAMG同士による優勝争いも緊迫していた。

 レース再開からややペースを抑えていたロズベルグは、ERS(エネルギー回生システム)のバッテリーをフル充電し、49周目から反撃を再開。そして52周目のターン1でDRSを使ってハミルトンのインに飛び込んだ。

 ロウのメッセージをポジションキープのチームオーダーだと信じ込んでいた周囲は、この展開に驚きの表情を見せるとともに、リアルレーシングに色めきたった。

 ハミルトンは18周目の攻防と同じようにロズベルグのアタックをかわすが、続くターン4でも2台はサイドバイサイドのまま立ち上がり、出口ではロズベルグがアウト側のランオフエリアのギリギリまではみ出しながら追いすがる。あわや接触かと冷や冷やするほどの激しいバトルだが、本人たちはお互いの腕と敬意を信頼し、ギリギリのところで一線を越えないプロフェッショナリズムに裏付けられたバトルを楽しんでいる。幼い頃から友人として同じコース上で切磋琢磨してきた2人だからこそ分り合えることもある。昨日今日F1にやって来たばかりの新人相手では、こうは行かない。

「ルイス、必要ならオーバーテイクボタンをコーナーの出口で使え」

 53周目にも再びターン1でロズベルグがインに飛び込み、2台の激しい攻防が再現された。しかしハミルトンはこのバトルを楽しむかのようにアウト側から立ち上がってロズベルグに並びかけて抜いていく。

 結局最後までハミルトンが首位を守りきり、2連勝を飾った。

 

20140413-08

 

 パルクフェルメに戻ってきた2人はマシンを降りて互いを見つけるなり、子供のようにじゃれ合った。互いに相手の腕を認め合っているからこそ最高のバトルを演じられたということ、そして常人には分かり得ない彼らだけがいる異次元の世界をともに心から楽しんだということを確かめ合うように。

 決勝前に一人密室に籠もって精神集中をしていたハミルトンが、こんなレースを予期していたかどうかは分からない。しかしもしかすると、ロズベルグの場所にいたのは2番グリッドからスタートしたハミルトンの方だったかもしれない。きっと彼は、いずれにしても今日のレースで勝利を収めるためにはチームメイトと激しい争いを繰り広げなければならないことは知っていた。それが、こんな高度な技量と精神力が要求される最高のバトルになるであろうことも。

 折しも、今シーズン大革新を迎えたF1に対するネガティブな声が広まり始めた頃。彼らは言葉ではなく、最高のバトルでその声に反論してみせた。

「これでF1がつまらないなんていうヤツはいないだろ!」

 チェッカーを受けたロズベルグは、素晴らしいレースだったよと褒め称えるレースエンジニアに対して得意げにそう言い放った。

 夜の砂漠の中に浮かび上がったサーキットは、おそらく色とりどりの光のデコレーションなどなくとも、この素晴らしいショーによって光り輝いたはずだ。この世界に生きる者には、それだけの力がある。暗中模索が続く新時代のF1も、やがてきっとそんな風に明かりが射すはずだ。

 

20140413-09

20140413-10

 

(text by 米家 峰起 / photo by Wri2)

 

 

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