RACE【レース】

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 コース上では次々といろんなことが起きるが、上位勢の争いは膠着状態に入っている。

 最後の逆転のチャンスは、間もなくやってくるこの日最後のピットストップだ。

 アロンソ先導で行なわれてきたここまでのピットストップ合戦だが、最後はレッドブルが先に動いた。40周目、先手を打ってリカルドがピットインし、アンダーカットを狙いにいったのだ。

 目にもとまらぬ速さでタイヤが入れ換えられ、シグナルがレッドからグリーンに変わり、ジャッキが降ろされてカーナンバー3のRB10が発進して行く。しかし……

「フロントタイヤが着いていない!」

 リカルドが悲痛な叫びを上げるよりも前に、左フロントタイヤのクルーはピットウォールに向かって必死に手を振ってアピールしていた。オレたちの作業はまだ終わっていないのだと。

 左フロントのガンマンがいつもの癖で作業完了を示すボタンを押し、マシンの左前方に立って作業状況を見守っていたはずのチーフメカニックも見落としたのだ。

 いずれにしても、ピットレーンの中程に止まったリカルドのマシンは所定のボックスへと押し戻され、改めてホイールナットを締め付けて再びコースへと送り出された。だがこのような発進は“アンセーフリリース”とみなされ、10秒ストップペナルティが科せられるだけでなく、次戦の10グリッド降格ペナルティも科せられるという、極めて厳しい措置が執られる。この僅かなミスで、リカルドはこのマレーシアGPだけでなく次のバーレーンGPも上位争いの権利を奪われたも同然なのだ。

 コースに戻ったリカルドはターン14出口の縁石に乗った際にフロントウイングのステーの一方が破損し、フロントタイヤを傷つけてしまった。ピットに戻って修復せざるを得ず、もうポイント争いの可能性すらなくなったためにリタイアを選ぶこととなった。

「セバスチャン、燃料に気をつけて走ってくれ。できるだけハードタイヤで走る距離を短くしたいから、もう少しステイアウトするよ」

 2位ロズベルグとの差は7.5秒。レッドブルはもう3位表彰台確保の走りに切り替えていた。42周目にピットインして5位に下がったアロンソと、2ストップでステイアウトし続け4位を走るヒュルケンベルグの2台までは30秒近い差が開いていて、後方の憂いはない。

「セバスチャン、もう少し燃料が必要だ」

 燃費セーブの指示はすなわちクルージングの指示。49周目にピットインをすると、フェッテルはヒュルケンベルグの前で3位のままコースに戻った。それを見てロズベルグも50周目にピットインを行なう。

「ルイス、雨のおそれはもうなくなった。タイヤマネジメントをし続けてくれ。良い仕事をしているよ」

 首位ハミルトンも51周目にピットストップを終え、レースはいよいよ終幕へと近付く。

 

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 最後のピットストップを終えてから懸命にプッシュを続けてきたアロンソは、53周目についにヒュルケンベルグのリアを捕え、ターン3からの立ち上がりで攻略して4位を奪い返した。

 そして、ウイリアムズ勢同士のバトルがレース終盤のハイライトになろうとしていた。

「フェリペ、バルテリは君よりも速い。彼を抑え込むな」

 7位フェリペ・マッサにチームから無線が飛ぶ。

 ウイリアムズ勢は序盤からテールトゥノーズの編隊飛行を続けてきた。

「バルテリ、彼にアタックをするな。彼がマグヌッセンを抜くのを待つんだ」

「僕の方がペースが速いのに!」

 序盤にはバルテリ・ボッタスからの懇願を跳ねのけたウイリアムズだったが、2周遅いピットストップのシークエンスでレースを戦わせているボッタスの方がレース終盤には優位な立場になるのは当然のことだった。

 

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 高い最高速を持ちながらもジェンソン・バトン攻略に手間取るマッサの様子を見かねて、チームはボッタスを専攻させて揺さぶりをかける手段に出たのだ。

「バルテリ、君の方が速い。フェリペを抜いて良いぞ」

 しかしマッサは頑としてポジションを譲ろうとはしない。そうしている間にも前のバトンは逃げていく。

「フェリペ、バルテリの方が新しいタイヤを履いているんだ。彼を抑え込まずに前に行かせろ!」

 しかしマッサは決してラインを明け渡さず、チームメイトに対しても通常のレースを演じ続けた。そしてチーム側も不必要なリスクは避けるべく、残り2周になった時点でポジションキープの指示へと切り替えた。

 上位勢はもうチェッカーフラッグへ向けてクルージング走行に入っていた。

 2位ロズベルグを15秒引き離して走り続けたハミルトンは、そのまま悠々とチェッカーを受け、今季初優勝を飾った。2位ロズベルグ、3位フェッテルもまた、そのポジションを守り抜けたことに満足を感じながらチェッカーを受けた。1年前とはまるで違う表彰台の光景が、そこには広がった。

 

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 結局、最後まで雨に翻弄されることもなく、暑さに倒れることもなく、2014年のF1マシンとドライバーたちはセパンの305kmを走り切った。

 圧倒的な速さを誇るメルセデスAMGと、それに急激に追いすがりつつあるレッドブル。そして激しい中団の争い。開幕戦では雲に隠れて見えなかった2014年の勢力図が、セパンの太陽の光の下に照らし出された。

 しかしそれは今この瞬間の空模様でしかない。きっと今季のF1が前へと歩む速度はこれまでのどんなシーズンよりも速く、マレーシアの空よりも刻々と移ろいやすく、先を読むことも難しいだろう。

 

(text by 米家 峰起 / photo by Wri2)

 

 

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