【特別記事】ニック・デ・フリース「F1を諦めかけたこともあったけど、どんなチャンスも掴み最大限に努力してきた」
ーー2023年のアルファタウリ加入が正式発表されましたが、イタリアGPの衝撃的なデビューからここまで驚くような速さでしたね。
「それまでにも様々な話し合いをしていたことは事実だけど、イタリアGPの結果がその話し合いを加速させたのは間違いない事実だね。一昨年フォーミュラEを制してもF1のチャンスはなく、昨年夏や今年の頭にウイリアムズと交渉していたけどそのチャンスを掴むことはできなかった。それでもメルセデスAMGのリザーブとしてウイリアムズのリザーブも兼任し、裏側では常に様々な話し合いはしてきていたんだ。その中でフェルナンド(・アロンソ)がアストン移籍を決め、オスカー(・ピアストリ)の件が夏休みの最初に起きてシリーシーズンが始まり、僕も裏側ではずっとその一部で交渉を続けていたんだ。そんな中でイタリアGPのあの結果が、僕に対するクエスチョンマークを取り払ってくれた。もちろんあのイタリアGPの週末は様々な幸運が揃ったという面もあって、マシンはモンツァという特殊なサーキットでコンペティティブだったし、グリッド降格ペナルティを受けた人も多かったし、リタイアもあったし、僕はフロントブレーキに問題を抱えていたからセーフティカーがなければレースを完走することも難しかった。しかもたまたま父が現場に来ていてあの瞬間をともに味わうことが出来たのも幸運だったんだけどね。そこからは全てがあっという間に進んでいったよ。モンツァの翌週にはグラーツに行ってヘルムート・マルコに会い、それが誰かに目撃されてしまったのでそこからは秘密でも何でもなくなってしまったんだけど、本当にあっという間にここ(正式発表)まで来たという感じだね」
ーー同郷のマックス・フェルスタッペンと非常に仲が良いということですが、ヘルムート・マルコと会うにあたって彼からのアドバイスはありましたか?
「そうだね、僕とマックスは同じオランダ人でカートから一緒に、彼の方が少しだけ若いけど同じ世代で戦ってきて、とても仲が良いよ。彼が父親とともにカートやレースに対して挑んできたスタイルというのは、僕と父にもかなり似たところがあったしね。だからお互いにレースを愛し、お互いにリスペクトし合ってきたんだ。もちろん今は彼はワールドチャンピオンであり、F1でベストなチームのひとつに所属し、2度目のタイトルを獲ろうとしている。実際の年齢は彼の方が若いけど、付き合う上では彼の方が兄のような振る舞いでお互いに接しているね。モンツァの後にもモナコで夕食をともにして、チャンスや可能性について話した。その週にドクターマルコに会って話をしてここまで来たというわけさ。何かひとつが決め手になったというわけではないと思うし、僕は常に周りの人たちの意見に耳を傾け続けてきたんだ。知識というのは重要なものだと思うし、チェスと同じで与えなければ与えられることもない。そういうかたちの会話を常にしてきているね」
ーーF2でタイトルを獲り、フォーミュラEでタイトルを獲ってもF1への道筋が開かれなかったとき、F1昇格を諦めたことはありませんでしたか?
「これまでレースをしてきて、いくつかの地点ではもうF1のチャンスはないかもしれないと思ったことはあったよ。例えばF2を制した後にフォーミュラEに参戦することになった時がそうだ。フォーミュラEというのは一般的なF1への道筋とは言えなかったからね。でも僕はこうしてF1へのドアを開けることができた。常にどんなチャンスであろうと自分に巡ってくるものは掴み獲ろうとしてきたし、F2時代からすでにWECやELMSで走っていたのはそのためだ。単純にレースが好きだし、そういった機会でさえ多くのレーシングドライバーが欲する恵まれた環境だ。自分の状況に苛立つのは簡単だけど、僕は自分に与えられた状況に感謝していたし、自分のレースを愛していた。だからどんなチャンスであろうと掴み、最大限に結果を出そうとしてきたし、あのイタリアGPで全てが上手く噛み合って自分の力を証明することができた。そのことをとても嬉しく思っているよ。これは自分個人で達成したことだなんて思っていない、家族や支えてくれた人たち全てのチームとして成し遂げたことだと思っている。もし今電話をして『すぐに来てくれ』と言えば、明日にはここ鈴鹿に来てくれるはずだ。そんな風に僕の家族は僕のために多くの犠牲を払ってくれたし、こうして彼らに恩返しができることをとても嬉しく思っているんだ」
ーー来年デビューする頃には28歳とやや遅咲きのF1デビューとなりますが、不安はありませんか?
「自分ではまだ若いと思っているし見た目も若く見られるのに助けになっているかもしれないけど(笑)、少し年をとっているといっても経験や成熟度合いというのが助けになる部分もあると思う。こういう年齢でのF1デビューというのがちょっと珍しいというのは分かっているけど、結局のところ最も重要なのはパフォーマンスと競争力だ。そこに集中しているし、楽しんでもいる。まだ子供の頃の夢が叶ったという意識はあまりないけど、家族だけでなくこれまで僕を信じて支えてきてくれた全ての人たちに恩返しができることを嬉しく思っている。来年に向けて作業もすぐに始まるし、その新しいチャレンジを楽しみにしているんだ」
ーーF1でどこまでやれるという自信がありますか?
「まずパドック内外を問わず大勢の人が計り知れないほどの賞賛と祝福をしてくれたことに感謝しているよ。レッドブルとアルファタウリにも感謝している。だからまず自分自身の目標としては、自分のやれるだけのことをやり、この機会を与えてくれた人たちが誇りに思ってくれるような走りをすることだと思っているよ」
ーーメルセデスAMGとの関係を終了することで失うものについて後悔はありませんか?
「フォーミュラEでもF1のリザーブドライバーとしてもメルセデスAMGのために走ってきたし、彼らとの契約を延長したいと思っていた。とても良い関係を築いてきていたしとてもサポートしてくれた。しかしそれ以外の(活動や契約を縛る)契約はないし、僕は自分自身の利益を追求しなければならない。僕が今回の契約で何を失うのかは分からないしそれは彼らに聞いてもらいたいけど、僕が来年F1のグリッドに並ぶチャンスを手にすることを喜んでくれているのも確かだよ」
ーーイタリアGP後にアルピーヌでテストを行なったのは、アルピーヌ加入の可能性もまだ合ったということですか?
「フェルナンド(・アロンソ)がチーム離脱を決めてからずっと交渉してきたのは事実だけど、あのハンガリーでのテストはイタリアGPよりも前に決まっていたことだったんだ。あのテストに対して別の解釈をした人もいたかもしれないけど、実際にはもっと前に決まっていたんだ。実際、ベルギーGPよりも前に僕はアルピーヌのファクトリーに行ってシミュレーターセッションをやっているしね。もちろんアルピーヌでのテストも素晴らしい経験になったし、これだけ様々なマシンをドライブ出来るというのは幸運なことだと思う。テストはとても上手く行ったし、ブダペストは好きなサーキットのひとつだしね」
ーーウイリアムズとの関係値については?
「ヨースト(・カピート)を始めウイリアムズともとても良い関係を続けてきたし、ストレートな交渉もしてきた。でもシリーシーズンで様々な選択肢や可能性がある中で、ベストな選択肢がこれであったことは間違いないよ。レッドブルの姉妹チームであり、技術的にもリソースの共有という意味でも非常に強い結びつきがあるんだからね。だからチーム組織として非常に強力な競争力を持つことができるのは間違いない。もちろんファクトリーはイタリアに拠点があるし、チーム自身も強いイタリアのDNAがある。僕自身も若い頃の大半をイタリアで過ごしたから、すごく歓迎ムードを感じるしファミリーのような雰囲気だよ。だからアルファタウリに加わり一緒に働くのがとても楽しみなんだ」
ーーイタリアに引っ越す予定ですか?
「モナコから近いので引っ越さなくても大丈夫だよ。いずれにしてもイギリスの(レッドブルのファクトリーにある)シミュレーターに乗りに行く機会も多いし、どこに住んでいるかはあまり関係ないだろうね」
ーー行く行くはマックス・フェルスタッペンのチームメイトに?
「現時点ではあまり具体的に考えられる状況ではないね(笑)。まだまだ先は長いし、今はとにかくこの素晴らしいチャンスを与えてくれたレッドブルに感謝しているよ。とにかく少しでも成功に満ちたものにするために、自分にやれるだけのことをやりたいというだけだ。パフォーマンスと競争力が重要で、コース上で結果を残し続ければキャリアを前に進めていくことができるんだと思う」
ーーF1での経験値の不足はどれだけ不利になるでしょうか?
「もちろんまだ僕はF1での経験値が足りていない部分はある。走ったことのないサーキットもたくさんある。しかし(ドライバーとしての)成熟度や様々なカテゴリーを含めた経験値という点ではたくさんあるし、フォーミュラEも耐久レースも含めてこれまでのレース経験があらゆる面においてF1に向けた最大限の準備を整えてくれたと感じている。どんなスポーツでも練習は毎日できる者だけど、モータースポーツではそうではない。レースやシミュレーターで練習する時間は限られている。だから僕はいつでもレースに参加できることを好んできたし、そういう経験が僕を成長させてくれたんだと思っている」
ーーヘルムート・マルコはあなたの様々なカテゴリーでの経験や人間性から、チームリーダーとしての役割やアルファタウリを進歩させる役割を期待していますが、1年目から多くを求められすぎだとは思いませんか?
「その言葉はありがたく聞いておくよ(笑)。ただ僕はチームリーダーになるのにF1での経験が必ずしも必要だとは思っていないんだ。どちらかというと性格や人間性による部分が大きいと思う。F1で戦っては来ていないけど、僕は成功を収めるためにどんなチームが必要か、どんな能力が必要かということは分かっているつもりだ。だから自信はあるよ」
ーー角田裕毅と良いコンビを組める自信はありますか?
「裕毅はすごくエンターテイニングで良いキャラクターだし、彼と過ごす時間をすごく楽しみにしているよ。彼がとても速くて才能のあるドライバーであるということは明らかだしね。彼がF2で走っていた時から連絡は取り合ってきたし、マックスと一緒に移動しているときに一緒になって食事をともにしたことも何度もあるしね」
ーー彼とコンビを組むために日本の文化を学ぶ必要もあるでしょうか?
「裕毅が色々と教えてくれるとは思うけど、彼が教えてくれる内容は信用ならないね(笑)。彼のアクションを僕がマネできるか自信もないしね。でも彼とは楽しい時間が過ごせることは間違いないと思っているよ」
ーー日本に来た印象はいかがですか?
「日本は本当に素晴らしいよ。日本の人たちはとても親切だし、相手に敬意を持っている。オランダのファンを否定するわけではないけど、オランダではオレンジ色のマックスファンだらけなのに対し、日本では僕も含め誰に対しても応援があり敬意がある。だから日本に来られてとても嬉しいし、来年ここに来る時にはもっと温かく迎えて貰えると嬉しく思うよ」
(text by 米家 峰起 / photo by 米家 峰起, AlphaTauri)
>>>「オランダではオレンジ色のマックスファンだらけなのに対し、日本では僕も含め誰に対しても応援があり敬意がある。だから日本に来られてとても嬉しいし、来年ここに来る時にはもっと温かく迎えて貰えると嬉しく思うよ」
そりゃあ、ギュンターに求婚するファンもいるくらいですから(笑)