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REGULAR【連載】

松本人志さんと週刊文春の対立に感じる違和感

 世間では昨年末からダウンタウン松本さんの話題がずっと続いていますが、この話題について感じる違和感がF1関連メディアに通ずるところがあるなぁと感じています。

 

 松本さんが文春を名誉毀損で訴えましたが、結局のところ「事実」は松本さんとA子さんしか知らないわけで、文春は本当の意味での「事実」は知らないし証明することもできないはずです(密室の中の出来事なのだとしたら)。

 

 でも「事実」は1つしかないので、そういう意味では「松本さんの主張」と「A子さんの主張」のどちらが「事実」か、どちらが嘘をついているのかという争いにしかならないし、それは文春にも裁判所にも判断はできないはずです。裁判所や文春が言えるのは「事実相当性」(どれだけ信じるに足るか否か)だけで、それイコール「事実」ではありません。

 

 それで「事実」を決めつけられるのは、恐いなぁと思います。いや、実際には「事実」とは決めつけていないのに、世間がそれを「事実」だと思い込んで「事実」だとみなされてしまうのは、恐いなということです。

 

 これって、F1をめぐる報道でもよくあることです。

 

 記事の中にコメントを恣意的な引用をされたり、具体的なコメントもないのに拡大解釈で変な風に書かれたり、本文に書かれてもいないのに釣り見出しで、言ってもいないことを言ったように書かれたり。そして、それを読んで分かった気になった人たちがそう思い込んで、あたかも「事実」であるかのようになってしまうのと同じです。

 

 ここからは、書くとか報じるということにおけるテクニカルな話になります。

 

 例えば、ラップタイムやスピードは「数字」という明確な「事実」が存在するので、こういったことは起こりようがありません。もしくは、レッドブルが22戦21勝を挙げたとか、ホンダとアストンマーティンが2026年の契約を交わした、というようなことは明確な「事実」です。

 

 本来なら、報道というのは「5W1H」が構成要件で、いつ・誰が・どこで・なにを・なぜ・どのようにしたというかたちで「事実」を報じるものです。

 

 ですが、前述の文春の記事は「松本人志がこんなことをした」という「事実」ではなく、「A子さんがこう言った」という「事実」しか報じていません。なぜなら、前者は文春は証明することはできないからです。だから、A子さんが「言った」ということだけを書き、言った「内容」には責任を取らない。実は「内容」についての責任はA子さんに押しつけ、自分たちはいつでも言い逃れできるようにしているわけです。

 

 でも、世間は前者のように受け取ってしまっています。文春が「松本人志がこんなことをした」と報じていると思っている人が大多数で、だからこそそれが「事実」かどうかを裁判で争うのだと思っています。

 

 しかし実際には文春は「A子さんがこう語った」ということを報じているだけで、「A子さんがこう語ったから松本人志はこんなことをしたんだ」とは報じていません。なぜなら、訴えられたらそれが「事実」だということが証明できず、敗訴してしまうからです。だから裁判でも負けないように、巧みに「私たちはA子さんがこう語ったという事実を伝えただけ」と言い逃れができるように書いているはずです(有料記事は読んでいないので確たることは言えませんが)。

 

 というわけで、名誉毀損で訴えた松本さんが争うのは「松本人志がこんなことをした」というのが「事実」かどうかではなく、「A子さんがこう語った」ことが「事実」かどうかという点になるはずです。

 

 A子さんが証言台に立たなければ、A子さんが語ったという事実は証明できないので、文春は不利になるでしょう(そういうことも想定してA子さんの同意書を取るなり色んな準備はしているでしょうけど)。A子さんは裁判所で嘘の証言をすれば偽証罪に問われるので、語った内容が事実でなければ証言台に立たない可能性もあるでしょう。逆に、文春に対して語った内容が事実なら、堂々と証言台に立ち「A子さんがこう語った」という事実が証明されるので、松本さんの訴えは棄却されるでしょう。

 

 ただし、繰り返しになりますが、松本さんが敗訴したとしてもそれは「松本人志がこんなことをした」という「事実」が認められたわけではなく、文春が報じた「A子さんがこう語った」という「事実」が証明されただけです。でも、世間では「松本人志がこんなことをした」が「事実」だと広まっていくでしょう。

 

 長くなってしまいましたが、F1報道の視点で何が言いたいのかというと、前述のような「5W1H」の本来あるべき報道記事なんて、ほとんどないということです。

 

 F1関連の記事のほとんどは、○○○さんのコメントを引用しただけの「○○○さんがこう言った」という「事実」を書いたものにすぎません。きちんとした記事なら、○○○さんだけでなく別の人のコメントも合わせて裏取りをしてから書いたり、簡単に結論が断定できないことなら両論併記で別の意見も書くはずです。

 

 そういう記事もないわけではありませんが、いつも槍玉にあげて申し訳ないですが『F1 Gate』や『東スポ』をはじめとしたメディアとも言えないような記事や見出しは、「○○○さんがこう言った」という「事実」を書いたものでしかありません。本当の「事実」には一歩も迫っていないし、迫ろうともしていません。

 

 簡単に言えば、「Xさんが1+1=11だと言っている」と報じて、「1+1=11」が正しいかどうかは吟味せず、世間を惑わすようなことです。

 

 これは○○○さんが「語った」のは「事実」だけど、その内容が事実だとは言っていないし、書いたことに対する責任も取らないけど、世間を騙すようにそれが事実だと信じ込ませるという、非常に悪質な行為です。これは「報道」と言って良いのでしょうか?

 

 僕はそうは思いません。

 

(text by 米家 峰起 / photo by 米家 峰起)

 

 

 

 

 

  • コメント ( 6 )

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  1. masayoriA

    どこよりも的確な文春のまっちゃんね記事の解説ですね。F1の記事も同様のものが多いとの指摘も的確ですね。

  2. YOKOSE H.F.R.C

    コタツ記事と妄想記事が世の中に蔓延り過ぎですね〜
    そのうち『YouTubeでタロムートさんが〜〜〜じゃーーーと吠えた』とか出たりして

  3. yohn58

    マスコミはこういうものだということを的確に解説されていると思います。彼らは利益が出れば良いだけ、もしくは誰かの思惑に沿った世論操作をしているのかも知れません。小学生くらいからマスコミについての教育が必要だと思います。教育者の教育が先かもしれませんが。

  4. kento

    松本VS文春で松本さんが勝ったあとに文春VSA子で裁判。
    文春が勝ち、A子さんたちが賠償金の支払い。
    A子さんたちが払えなくて自〇としたら、
    文春は松本さんがA子さんたちを追い込んだとか記事にしそう。

    どうやっても文春が得する流れになってて嫌だな。

  5. unicorn712

    少なくとも文春が女性の味方とは思えないですね。
    関東生まれのバラエティ嫌いなので私は、このニュースが出ても「へぇ」で終わってタイトルまでしか見ず内容を見ようとは思いませんでした。結局読んだところで双方のどちらが正しいかなんて分かるはずもないと思っていたので。
    最近メディアは書いたもの勝ちになってますので、私はだんだんと離れています。

  6. hirachan100

    大手新聞社からしてデマや捏造、編集権の名のもとに行われる印象操作が平然と行われるんだから、雑誌のそれも一方の主張だけしか取材されてない物は、全く読む価値がないと思ってます。

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