【Rd.6 MCO・徹底分析⑤】UTSUの理系視点レース分析
第6戦モナコGPを徹底分析①〜④とは別の角度からいくつかのポイントに的を絞ってUTSUが独自の理系視点で徹底分析する。
【ポイント①】モナコでもメルセデスAMGと実力差が明らかなレッドブル・ホンダ
90年目を迎えたモナコGPは今年も手に汗握る展開になった。一見単調に見えるレースだったが、63周もの間ルイス・ハミルトンがマックス・フェルスタッペンの猛追を振り切り、3回目のモナコの優勝を飾った。ペースやギャップのデータを見ると、各所で瀬戸際の戦いが垣間見れた。このレース展開について、ペースとギャップのグラフを見ながら振り返る。
上のグラフは1周目から10周目までのラップタイムを示したものだ。SCが入るまでの10周のトップ集団は1分16秒台を続けるラップタイムを重ねていた。しかし、フェルスタッペンやセバスチャン・フェッテルがメルセデスAMGのペースに追従できていた。これはレーススタート5分前にバルテリ・ボッタスに対する無線で「5分後に雨が降る」という情報から雨に備えて、ハミルトンがタイヤを守る走りをしていたのだろう。計画の戦略では25周程度でミディアムタイヤに替える戦略だったのだろうが、SCが入ったことによってその計画は崩れた。
SCが入ったことで、トップ集団にいた4台はピットに入りメルセデスAMGはミディアムタイヤ、フェッテルとフェルスタッペンはソフトタイヤを履いた。ここで「チャンピオンシップで遅れを取っているフェルスタッペンやフェッテルはステイアウトしてみても面白かったのでは?」と思われるかもしれないが、モナコではオーバーテイクが難しく、タイヤも他のサーキットよりもタレが小さいため、SC導入時にピットインするのが原則だ。今回はレース中の雨も心配されていたため、SCが入ったタイミングでピットインするのは妥当な判断と言えるだろう。
もしSCが導入されたタイミングでステイアウトした場合はどうなっていたのか、簡単にシミュレーションしてみよう。参考になるのは、SC時にステイアウトしたピエール・ガスリーのラップタイムだ。上のグラフではガスリーとハミルトンのラップタイムを並べてみた。ガスリーはソフトタイヤでスタートし、SCのタイミングでステイアウトしていた。しかし、SCが明けた後もハミルトンと同等の17秒台のラップタイムをマークしていくのが精一杯で、集団に近付くどころか若干差が広がっていた。この様子を見るとソフトタイヤでステイアウトしても、ピットストップのロスタイムである20秒を稼ぐことは難しく、得策とはならなかっただろう。このため、フェルスタッペンやフェッテルはコース上でハミルトンを抜かない限り優勝する術は無かったことになり、モナコで後方グリッドから優勝することの難しさを表している。
さて、ガスリーの第2スティント以降も見てみよう。上のギャップグラフに注目してほしい。ガスリーはSC明けに前方で抜けずにいたダニエル・リカルドとケビン・マグヌッセンがピットに入ったことで5位に浮上した。27周目にミディアムに交換し、ボッタスの背後を追いかけるが、トップ集団に加われなかった。タイヤを変えた直後の28周目から40周目までは一周あたり0.7秒ずつ接近するも、その後は勢いが止まり、ボッタスの12秒後方からギャップを縮めることができなかった。ファステストラップを取るために、2回目のピットでソフトタイヤに替えてファステストラップを記録し、ギャップを大きく縮める様子が目立っているが、第2スティント中にボッタスに接近できなかったことが今のガスリーとレッドブル・ホンダの実力不足を表している。終盤に向けてタイヤをセーブしていたのかもしれないが、41周目以降のペースの鈍りが今後のレッドブル・ホンダやガスリーに対する宿題事項となりそうだ。
【ポイント②】なんとかもぎとったトロロッソのダブル入賞
トロロッソの戦い方も見てみよう。ダニール・クビアトはSC導入時にステイアウトしたことについて「最高の選択だった」と絶賛していたが、果たしてそうだったのだろうか。クビアトの前方にいるクルマでSCのタイミングにピットピットインしたのは、ダニエル・リカルドとケビン・マグヌッセンだ。この2台はランド・ノリスの後ろで合流する。ノリスは、路面温度の低さからか、ミディアムタイヤの性能を引き出せずペースに苦しんでいた。このためリカルドとマグヌッセンはノリスを先頭としたトラフィックに引っかかり、クビアトよりも1周あたり2秒遅い状況が続いていた。これにより、クビアトがピットインしてもリカルドやマグヌッセンから順位を奪われることもなく、ポイント獲得に繋げることができた。もしノリスのミディアムタイヤがSCの後も機能し、クビアトから大きく遅れることがなければシーズンベストの6位も叶わなかったギリギリの戦略と考えられる。
今回はモナコであったことから追い抜きも少なく、SCも入ったために戦略に対してバリエーションが見られなかった展開だったが、各車の実力が垣間見れたレースでもあった。メルセデスAMGでさえ、低めの路面温度でのミディアムタイヤの扱いに苦しみ、ペースの落ち込みがあった。カナダGPでも今回と同じ最も柔らかいタイヤコンパウンドが使用される。低温のコンディションも考えられることから、各チームがどのように対策を施し、性能を引き出せるのかが注目ポイントになりそうだ。
(text by 正木 聖 / photo by MercedesAMG, Red Bull,Pirelli)
ソフトじゃないよ、ハードだよ