RACE【レース】

20140203-02

 

 1月31日、小林可夢偉が14カ月ぶりにF1に戻ってきた。

 

 待ちに待ったその日は、朝から生憎の雨だった。ケータハムは最も経験ある可夢偉にマシンの評価を託すべく、最終日のドライブを任せた。だからこそ、若い二人に経験を積ませるために1日のみとなった可夢偉の担当日を、天気予報を踏まえてドライ走行に当て込むべく最終日に決めたのだが、それが裏目に出る格好になった。

 

 しかし、最初の3日間である程度トラブル出しを済ませることができたのは好都合だった。いまだにルノーのパワーユニットはトラブルを抱えているとはいえ、騙し騙し走らせる方法は見つけつつあったのだ。

 

 前日まではトラブルのせいでマシンの準備にも手間取り、スロー走行の10周、それもタイムドラップではなく確認走行しかできなかったのとは一転して、最終日は午前9時にマシンの出走準備が整おうとしていた。小雨がパラつく中、可夢偉は午前8時48分にモーターホームからピットガレーへと向かった。真っ白なレーシングスーツが慌ただしかった契約発表からの10日間を物語っていたが、寒さを防ぐように上半身には緑色のダウンベストを羽織り、小脇には真新しい黒のデザインが施されたヘルメットを抱えている。

 

 ピットガレージでは眩しいライトの下でCT05の最後の準備が進められていた。クルーがエンジンカウルを被せ、ノーズを取り付け、マシンは徐々にクルマの形になっていく。9時15分、可夢偉はレーシングスーツを首もとまで閉めてヘルメットを被り、コクピットへと乗り込む。最後にクルーがタイヤを装着してジャッキダウンし4輪をそれぞれ4つの秤の上に載せる。重量配分が適正にセッティングされているかどうかを確認しているのだ。

 

 いざコースインと思った矢先、コクピット内に装着されている機材不具合があったのか、可夢偉はいったんコクピットから降り、タブ内側を覗き込んでクルーと何やら話し合う。

 

 9時20分、可夢偉が再びコクピットに乗り込むと、いよいよピットガレージ内のクルーたちの様子も慌ただしい雰囲気になってくる。ガレージ内にはネイティブの英語が飛び交い、国籍こそマレーシアでも実態は英国のチームなのだと言うことを改めて感じさせる。下位カテゴリーから数えても、可夢偉にとっては初めての英国チームだ。

 

 9時23分、ついにCT05のエンジンに火が入る。そしてピットガレージの前に立てられていた2枚の白い衝立が開かれる。何人ものカメラマンとジャーナリストが、それを見てガレージの両側に群がる。その間を縫うようにして、可夢偉は勢いよく加速してコースへと飛び出していった。前日までの若手ドライバーとは明らかに異なるその姿は、経験豊富でF1マシンを自分の手のものにしているドライバーの余裕を感じさせた。

 

 まだ小雨に濡れたコースへと向かっていく可夢偉の後ろ姿には、緑色のテールライトが眩しく点滅する。本来グリーンライトはF1に不慣れなルーキーがドライブする際にそれを示すために灯される。可夢偉の経験があれば通常の赤いライトで構わない。しかしケータハムのマシンカラーに美しくマッチしたその緑色のライトが、あのトヨタでF1デビューした時と同じような気持ちで2014年という最後のチャンスに臨む可夢偉の心を映し出しているような気がした。

 

20140203-03

 

 インストレーションチェックでゆっくりと1周した可夢偉のマシンはピットレーンに戻ってきて、ガレージへと押し戻された。可夢偉はコクピットに収まったまま、クルーたちがマシンのメカニカル面とデータをチェックする。その間もガレージの外ではしとしとと小雨が降り続いている。

 

 9時35分、全てのチェック作業が終わり、可夢偉は再びコースへと出て行く。ピットウォールから掲げられる日の丸と「KAMUI」の文字が描かれたサインボードには、「L3」というパネルが装着されている。3周の計測ラップにアウトラップとインラップを加えて計5周のランだ。

 

 しかし可夢偉はメインストレートを通過した後に1周走っただけでピットへと戻ってきてしまった。どうやらパワーユニットのバッテリー周りにトラブルが発生したらしい。

 

 ガレージに入っても可夢偉はコクピットから降りることなくクルーの作業を待つ。トラブルはマイナーなものだったようで、9時46分には再びエンジンに火を入れて確認すると、さらに少々の対策を施して10時7分にもう一度コースへと向かった。4周の予定だったランを3周で切り上げてピットへ戻った可夢偉は、10時31分からの次のランではインターミディエイトタイヤに履き替えて1分44〜45秒台のペースで走行し、6周計測まで連続周回数を伸ばした。路面はすでに水量が減って乾き始めており、この時点で周回数はすでに15周を数えた。

 

 11時12分に5回目のランへ。ラップタイムは1分43秒台へと突入し、タイミングモニターの上位5番手へと上がってきた。ここで記録した1分43秒193がこの日のベストタイムになった。可夢偉は7周でピットインし、11時42分には6回目のラン。こちらは1分46秒台で6周し、11時59分には立て続けに7回目のランで5周。

 

 12時24分からの8回目のランではピットストップを繰り返し、1周ごとにフラップを少しずつ調整しながらフロントウイングのエアロスキャン(ダウンフォース発生量の測定)を行なう。ようやくパワーユニットのマップ以外の車体側のデータ収集も行なうことができた。もっとも可夢偉が言うには「こんなもの初日にやっておくはずのこと」なのだが……。8周を走って12時42分にピットへ戻ると、13時00分に再びコースへ。4周走行で13時8分にピットへ戻り、ここでようやくランチブレイクを迎えて可夢偉はコクピットから降りた。

 

20140203-04

 

 ここまでで実に45周もの周回をこなした可夢偉は、わずか30分の休憩だけでコクピットへ戻ると、再びコースへと出て行った。まずは5周をこなし、さらに13時58分にこの日11回目のランへ。ピットストップを繰り返しながらおそらくは別のエアロスキャン作業を行なっていたようだが、3周を走ったところでパワーユニットのシステムにトラブルが発生してピットガレージへと戻された。

 

 修復作業を行なって14時36分にコースへ出てみたものの問題の解決には至らず、そのままピットへ戻ってこれ以上の走行は断念することを決めた。54周で可夢偉の2014年初テストは終了を迎えた。

 

 1日を通してパワーユニットのシステムが正常に動くことはなく、そのマッピングのデータ収集と修正作業に追われることとなった。エンジンは激しい振動を発し、時にMGU-Kのチャージが正常に作動しなくなりリアブレーキが不安定な挙動を示すなど、とても全開で攻めて走れるような状況ではなかった。

 

 可夢偉本人にとっては不完全燃焼の1日だったようだが、それでもルノー勢最多の54周を走破できたことは大いに意味があったはずだ。このデータを元にルノーとケータハムは2週間後のバーレーン合同テストへ向けて対策を講じ、次こそ本格的なテストを可能にして失った時間を取り戻さなければならない。

 

(text by 米家 峰起 / photo by Wri2)

 

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