REPORT【報道】

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 12月5日、小林可夢偉は六本木に姿を見せた。その表情に少し疲れが窺えたのは、午前11時という彼にとっては早い時間のためではなく、ブラジルから日本に戻って以来スポンサー獲得のために忙しく走り回ってきたせいだった。

 長かったシーズンが終わっても、息をつく暇などなく可夢偉の戦いは続いていた。昼はスポンサーとの交渉、そしてヨーロッパが朝を迎える夜になればチームとの交渉。睡眠時間が短くなり、疲労が蓄積するのも当然のことだった。

 一流チームへの移籍を決めたチームメイトと、先行きの見えなくなった可夢偉。同じザウバーのシートに座りながら、どうしてこれほどまでに二人の明暗は分かれてしまったのか。

 2012年の可夢偉は、我々の知らないところでどんな戦いをし、そしてあの表彰台までたどり着いたのか。

 それを知ることで、小林可夢偉というレーシングドライバー、そして小林可夢偉という一人の人間の本当の戦いが見えてきた。

 ホテルの一室で、オーク材のテーブルを挟んで向かい合い腰を下ろした可夢偉は、静かに語り始めた。

 

ーーこの1年を振り返ってみると、どんなシーズンでしたか?

「アップ・アンド・ダウンの……あんまり運が無かったシーズンやったかな(苦笑)。長かったようで短かったような。20戦っていうと長いかと思ったけど、終わってみるとあっという間だったなぁっていう、まぁよくある話やけどね。開幕したオーストラリアなんてだいぶん前のことのように感じるけど、でもいざ始まってみると短かったよね……」

ーー”アップ”よりも”ダウン”の方が多かったよね?

「まぁ、運の悪いレースが多かったよね。シーズン前半も走りは良かったけど、運が悪くて結果に繋がらなかったし」

ーー逆に”アップ”の方は?

「流れが良い時は表彰台とか4位、5位を争えたり、今までにないリザルトが争えるレースができたよね」

ーー開幕前にはどんなポジションが狙えそうかと聞いても、「あんまり期待したくない」と言っていたよね。

「開幕前に期待しすぎると、シーズンに入ってから5位とか6位でもみんな『普通じゃん』って言い出すから(笑)」

ーーでも、良いところが狙えそうだというのは分かっていたんでしょ?

「そりゃあ、分かりますよぉ(苦笑)。ただそれはね、行けるからって実際に(目標だと数字で)言っちゃうと、後で痛い目を見るのは自分やからね、正直なところ」

ーー表彰台も行けそうだと思っていた?

「まぁ、上手くいけばね」

ーーそれも、何回も?

「うん」

ーーザウバーのこれまでのパターンだと、ヨーロッパラウンドに入った辺りから息切れしていたけど、今年は……。

「まぁ、意外に(コンペティティブさが)続いたよね。まさか鈴鹿まであんなポジションで戦えるなんて、誰も思ってなかったし。これは多分、去年の反省を生かして、今年1年でチームがすごく成長できたからなんですよ」

ーー1年を通してマシンを上手く開発できたということ?

「開発というよりも……きちんと正確な判断ができた、っていうことですね」

ーーシーズンが短く感じたというのは、それだけ充実していたということかな?

「充実していたというか、いろいろトライをしたし、しっかり戦えるところにいたし、戦えば戦っただけ結果が出るポジションにいたっていうのが大きかったよね。だから良い意味でいろんな頑張れる要素があったっていう」

ーーじゃあ、自分としては満足度は高い?

「まぁまぁ、そうですね」

ーーベストレースは鈴鹿だと思うけど、それ以外にも良いレースはあったよね。

「ペースとしてはホッケンハイムも良かったし、バルセロナも良かったし、バレンシアも意外と良かったしね。シルバーストンは思ったよりも良くなかったけど、あれは直線がそんなに良くなくて、周り(のチーム)もアップデートしてきたからタイミングが合わなかったっていうことだったんでしょうね」

ーーバルセロナも予選のトラブルがなければね。

「全然、表彰台やったやんな、あれは。優勝争いまでできたかどうかは分からへんけど、表彰台は確実に乗れてたよね。バレンシアも表彰台に乗れてたし、まぁ多分スパも乗れてたでしょ、(2番グリッドだから)さすがに」

ーーワーストレースは?

「ハンガリーかな。何しに来たんか分からんようなレースやったよね……。マンガリッツァ豚(イベリコ豚と同じDNAを持つ品種の豚で、ハンガリーの国宝に指定されているが食べることができる)を食べに来ただけやったみたいな(苦笑)。まぁまぁ(味は)普通やったけどね、何が国宝なんか分からへんし(笑)」

ーーずっと「完璧な週末ができれば」と言いながら、できたのは鈴鹿だけだった?

「う〜ん……鈴鹿だけでしたね、今年は。それでも60ポイント獲れたっていうのはなかなかすごいことやと思うし、そういう意味では悪くないシーズンやったと思うよ。思ったよりも結果が出せてないけど、結果は今までで一番ええんやからね」

ーーでも開幕前の期待からすると、期待以下だった?

「まぁ、それはもちろんそうやけど、それは(運だから)しょうがないからね」

ーーどのあたりまで行きたかった?

「そりゃ、もっと行きたかったよ。100ポイントくらい獲りたかったけど……でも残念ながらそんなことは言ってられない状態になったんで(苦笑)。まぁでも、普通にレースができてたらそのくらい獲れてたペースやったと思うから」

 

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こんなタイヤのためにクルマを作ったんじゃない!
自分らしいドライビングができない歯がゆさ

ーー去年はタイヤにドライビングスタイルを合わせるのに苦労したよね。

「今年はだいぶん合わせてきましたよ。上手くちょっとずつ自分の走りを合わせてこられたから」

ーーその辺りの難しさというのは去年ほどじゃなかった?

「そうですね。でもまぁ、僕の好きなドライビングスタイルではないけどね。走ってて楽しくないことはないですよ。ただ、自分が得意とする乗り方ではないっていうことですね」

ーーどういうドライビング?

「ブレーキを頑張って遅らせて、ガンと止まって曲げて、っていうタイヤではないんですよ。ブレーキをほどほどにして、ニュートラルにクルマを回して立ち上がる、みたいな。僕にはそんなに向いてるタイヤじゃなかった」

ーーレーシングドライバーとしては、攻めてる感じがしない?

「とかじゃなくて、今までのレーシングタイヤじゃないよね。頑張らなかった人がタイヤを痛めなくて速い、みたいな」

ーーということは、元々頑張るのが得意じゃない人が速い?

「そうそうそう。タイヤを苛めて速く走るんじゃなくて、タイヤを綺麗に使える人が速くなる、っていう。僕なんかは元々結構苛める方やったから……」

ーーそのせいで、自分の力を100%出し切るのが難しかった?

「そうやね。あとは、ザウバーのクルマに対して僕のドライビングもあんまり合わなかったっていうのもあったし。それは(2010年から)ずっとね」

ーーどういう特性が?

「ザウバーのクルマって、ブレーキが安定しないでしょ。僕が速い時って、ブレーキングが安定する時なんですよ。ホッケンハイムとか鈴鹿とか、コースレイアウトの関係とかしっかりエアロ(ダウンフォース)が効くようなところで、リアが強くてしっかり安定している時なんです。リアが踏ん張ってくれないと、ブレーキが頑張れないから、そうなるとコーナリングも弱くなるんです。ハンガリーとかシンガポールなんかはまさにそう。でも、今年はそういう時でも予選は結構頑張れたかなと思うけどね」

ーーハンガリーでどうしようもなく遅かったのは、バンプによってリアのエアロが抜けてしまうという話だったよね。

「クルマがダメダメでしたね、あれは空力です。どうしてもそこは僕らのウィークポイントで、どうしようもなかったですね。シンガポールもそう」

ーーバーレーンGPもそう?

「いや、あれはなんかよく分からないけどエンジンが全くダメだったんです。タイヤのグリップ不足もあったけど、エンジンだけで1秒くらい遅かったんですよ。『こらあかんやろ』っていう状態でした。結局、理由はよく分からなかったんですけど」

ーー今年はチームメイトの方が速いことも少なくなかったけど、その背景にはタイヤの使い方のせいで自分の良さが生かせないというもどかしさがあったんだね。

「まぁまぁまぁ……でも状況は常に変りますから。常に自分を成長させるのみであって、そんなこと(チームメイトとの比較)は別になんでもないですよ」

ーー今年のC32の開発コンセプトとしては、去年の弱点であったタイヤのウォームアップ性能を高めつつ、タイヤの保ちの良さもキープするということだったよね。実際のパフォーマンスとしてはどうだったんだろう?

「クルマのパフォーマンスとしては、シーズンはじめの方は結構どこでも行けるんちゃあうかなと思ったんやけど、シーズン終盤がそうやったように、タイヤとクルマの特性、それから路面温度とか路面のミューとの組み合わせの相性が良いところでは良いんやけど、コンビネーションが悪い時には僕らは弱くなるなというのはありましたね。思ってたよりも安定して良い走りができなかった」

ーーそれはクルマの元々の特性上、しょうがなかったのかな?

「そう、クルマですね。去年の弱点を良くしていったんですけど、(終盤戦は)まさかあんなワケの分からんコンパウンドばっかり来るとは思ってなかったし。去年の傾向から考えると、タイヤはすごくタレて2ストップ3ストップが当たり前になるというのがピレリの傾向やったはずやのに、まさか最後にあんな堅いコンパウンドを持ってくるとは思わへんかったから(苦笑)。僕らとしては『俺らはこんな堅いタイヤのためにクルマを開発したんちゃあうわ!』としか言いようがなかった。

 僕らは予算の都合上、いろんなものをテストするわけにはいかへんから、どっかとんがってるところを1つ開発するしかないんですよね。そうじゃないと(マシン性能の)全体的なアベレージが低くなってしまうんです。

 でもね、そうやって開発してきたからこそ、良いところではあれだけのパフォーマンスが出せたんですよ。プライベートチームとしてはビックリするくらいのパフォーマンスが出せたと思いますよ」

 

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相次いだチームの戦略ミス・判断ミス
しかしそれもひとつひとつが成功へのステップ

ーーマレーシアGPは、1周目にタイヤ交換を要求したものの拒否され、それをあてがわれたペレスの方が表彰台に乗り……。

「何をしてるんやろう、っていう感じ。最初のタイヤ交換をさせてくれなかったとこからダメで、ブレーキトラブルも出て、走り続けたけどダメやったっていう。まぁ……痛かったっすね、あれは……」

ーーあの結果がペレスと逆だったら、シーズンの流れも変わったのかな?

「うん、そうかもね」

ーーカナダGPはフォースインディアに引っかかって、戦略が上手くいかず。

「あぁ、そやそや、終わってたね。あれは完全に戦略負けやね」

ーーあの時のレース後は帰るのが早かったよね(笑)。

「早かった(笑)。だって、何しゃべろうかなっていう感じやから。『戦略がダメでした』っていうしかないやん。レース見ててわかるでしょ?」

ーーでも、ああいう時だからこそ心境も聞きたいじゃない?

「だって、基本的に僕は自分のことを表現するのが苦手やもん。そういう時だけじゃなくて、人生においても常に自分を表現するのが嫌いやから。本心を言葉に表わすのが苦手。感情表現が下手。シャイとかじゃなくて、苦手なんですよ表現するのが。女の子にも表現するの苦手やからね、ホンマに(苦笑)」

ーーでも仕事でもプライベートでも”結果”を残してきてるじゃない?(笑)

「残してる!?(笑) 残してない、残してない!(笑)」

ーーチームメイトが先に表彰台に乗った時も感情表現は難しかった?

「アイツはまたそういうのが上手いじゃないですか。僕はその反対、みたいな。でもね、だからといってアイツがメディアに好かれているかっていうと、そういうわけじゃないでしょ? 結局ね、みんながどういう風に思ってくれてるんかっていうことを考えながら表現していかないと、後になっていろいろ言われるんですよ。女の子でも、1人で盛り上がってても片想いでしょ? 片想いほど幸せなものはないってよくいうけど、それって自分の思い込みで盛り上がってるから、周りの空気が読めてなかったり周りが見えてないからこそ、それが幸せって思えるわけで。だからみんなに共感してもらわないといけないんですけど、そのためにはみんなにも理解してもらえるように話していかないといけないし、その時にどう思われるかっていうことを考えないと彼みたいになるわけですよ。僕は一応、そのへんは空気を読んでるつもりやから、大人しくして。鈴鹿の表彰台とかでも、『すいません、勝った人ここにおるのにごめんなさい』みたいなね(笑)」

ーーあそこはもっと出しゃばっても良い場面だったんじゃないの?

「いやいや、あそこで『ごめんなさい』ってやっとかないと。勝者は別にいるわけやから」

ーーその勝者のセバスチャンも可夢偉を立てようとしていたじゃない?

「そうやけど、僕も勝者を立てないとね。僕にはブラジルのマッサみたいなことはできないですよ(苦笑)」

ーーチーム判断のまずさで失ったものもあったよね。シルバーストンやホッケンハイムの予選がそうだったけど、そういうことがあった後には、話し合いなどでチームとして何らかの対策をとって改善はできた?

「それは、失敗を一つ一つなんであかんかったかを分析して見直して積み重ねていくだけです。一つ一つの積み重ね。難しいことじゃないんです。

 結局あれはね、天気予報ばっかり信じてるからロクなことがないっていうことですよ。最後のブラジルのレースもチームは天気予報ばっかり信じてて、僕が意地でも『今このタイヤにする!』って言うてインターミディエイトに換えたからなんとか行けたけど、チームは『絶対晴れるから換えちゃダメだ』って言うてたんですよ。僕が『絶対無理や』って言うてタイヤを換えたらホンマに土砂降りになったし。最後までそうやったから、結局はそういう対応力とかいろんな意味でザウバーは”レース屋”じゃなかったっていうことですよね。最後の最後で言うことを聞いてくれたから助かったけどね」

ーーホッケンハイムでは自分たちで戦略を決めるという決断をして成功したけど、あれは転機になったのかな?

「うん、大きかったですね。しっかり回ればしっかり結果が出るっていうことを証明できたからね」

ーーチームの判断に対する不満は?

「常に0か100しかないようなチームやからね。常に運任せ。そこで間違いない戦略っていうのをやってたらドブにはまったっていうだけやったからね」

ーーその後のカナダGPにしてもイタリアGPにしても、可夢偉はコンサバ作戦、ペレスはギャンブル作戦っていう傾向だったよね。

「ほとんどそうやったよね。それがイヤということはなくて、それを上手く利用したドライバー(ペレス)もすごいと思うし。ただ、僕としては純粋なクルマのパフォーマンスでちゃんと表彰台を獲るっていうのが常に目標やったから。逆に言えば、ちゃんとやるべきことがやれれば表彰台が獲れるってチームのみんなが信じてたから、それをやり続けられたという方が正しいんでしょうね」

ーーでも、まさか鈴鹿まで待たなければならないとは思ってなかったよね。

「思ってなかったよね(苦笑)。でもね、結果的に獲れて良かったよ。獲れてなかったら今こんなことも言われへんのやから。『チーン』やったんやから(笑)。『ダメな1年でした』としか言いようがなかった可能性もあったんやからね」

 

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肝心な場面で再三襲われたスタートシステムの不発
それさえも予算の限られたチームゆえの苦しみだった


ーースタートシステムのまずさもあったよね?

「うん、あれは最後までダメやったけどね(苦笑)。最初から最後まであかんかったっていう」

ーー中国GPも3番グリッドで期待は大きくて、でもスタートで失敗。あの時は路面にオイルが出ていたからという話もあったけど、実際は?

「クラッチの方が大きかったかもね。でも、あの時はペース的には上位勢と戦うのはまだ厳しかったよね、若干。予選1発は強かったけど、決勝ではそんなに強くなかったから、厳しかった」

ーーベルギーGPも、実際にはグロージャン云々よりも……?

「スタートやね、あれも」

ーーでも鈴鹿はすごく上手くいったよね。

「そう、たまにね! 何回かはたまに上手くいったくらいで。まぁ、なんなんですかね。エンジニアも『わからへん』って言うてたからね(苦笑)。そんなこと言われたって、俺らはもっとわからへんわ(笑)。だからね、もうとりあえず『あんまりリスクを取らずに頑張ってくれ』って言うたんです。別にセッティングを攻めすぎたわけじゃないんでしょうけど、とにかく(クラッチが)気ままやからわからへんのですよ。

 今年のマシンは設計の段階から素材を変えたりいろいろと(工夫を)やってるから、去年と比べても今年のマシンは難しかったみたいです。でね、おカネのあるチームやったらダメって分かった瞬間に新しいのをバンと入れて解決したと思うんですけど、ザウバーはおカネがないから頑張ってこれを使い続けるしかないっていう状態やったんです。年間のパーツを最初にまとめて買うでしょ? だからもし途中で変更することになったら、使わへん分が無駄になるわけです。それを売ることもできないし、買う予算もないから、結局そのままいくしかないっていうね(苦笑)。良くないのは分かってたけど、そこはもう、チームの予算の差ですよ。ビックリするよね、理由が『おカネがないから』やって(苦笑)」

ーーじゃあスタートのたびに「また今回もダメかな」って思ったりするわけ?

「そうよ!」

ーーおカネがないチームはそういうところでも苦労しているんだ……。

「うん、ピットストップだって、シグナルを速くしたり油圧ジャッキを使ったら速くなるのは分かってるけど、なんで使わへんのかっていうたら『おカネがないから』やからね。おカネがないとこうなるんやっていうことですよ。結局はお金持ちのスポーツなんでしょうね、それはホンマに感じますよ……。そういう中で貧乏人がどこまで頑張るかっていうね、(僕は)昔っから常にこんなんやけどね……」

ーーでも、ここまで来られたんだし。世界中の人が小林可夢偉は素晴らしいドライバーだと認めてくれているわけで。

「そんなん言うてても、来年走ってなかったらみんな忘れてるからね。だから走り続けることが大事なんですよ」

 

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相次いだ不運・アクシデント、それを乗り越えてこその成功
やっと掴み取った鈴鹿表彰台、「運命だ」という言葉の真実

ーー不運なアクシデントも多かったよね。開幕戦オーストラリアGPは、1コーナーでペレスに追突されてリアウイングを壊しながらも入賞。

「うん、初っ端からそれやったなっていうね、今考えると(笑)。しかもぶつけられたのがチームメイトっていう。でも、それを考えると6位っていう結果は悪くなかったよね」

ーーモナコGPは1コーナーでグロージャンに当てられて終了。

「そう、1コーナーで飛んで。(グロージャンに対して)『なんだ?』みたいな(笑)。『戻ってくんなよ!』っていうね。あれは、いちばん最悪でしたね。どうしろっちゅうねん、っていう状態でしたから。

 ビックリしたんは、あれだけクルマが飛んでもサスペンション壊れへんのやなっていう。1メートルくらい飛んでたのに(苦笑)、F1マシンって結構強いんやなっていうね」

ーーベルギーGPでも1コーナーで多重事故に巻き込まれたけど……。

「あれは、それよりもスタートが問題やったからね。それが上手くいっていれば何も問題はなかったはずやのに」

ーースペインGPは戦略も完璧に機能したし、レースとしては良かったんだけど……。

「クルマとしては合ってるし、僕自身も好きなコースやし、速かった。とにかく予選ですね。ハイドロのトラブルでしたっけ? 『良い時になんやねん!』っていうね!(苦笑)」

ーー実際は開幕前からトラブルが多かったよね? スタッフの入れ替わりもあって。

「そうそう、多かった。予兆はあったけど、それでもやるしかないからね。それもチーム力やし、ドライバーとしてはどうしようもないから。まだ経験も浅い人たちに、失敗なしでやれっていうのは厳しいと思うし。僕ら(ドライバー)は失敗なしでやって当たり前みたいなところがあるけど、メカニックにはそうは言えないでしょ。トップチームじゃないしね。トップチームやったらサブのメンバーがいるから、失敗したら簡単にスタッフを換えられるけど、ザウバーはそんなのいないから。そのメンバーでやり遂げるしかないんですよ」

ーーヨーロッパGPは、何もなければ表彰台に行けたと話していたけど、あれも転落のきっかけはピットストップのミスだった。

「そうですね、ピットストップの失敗からアロンソの後ろになり、キミにも前に行かれて、つっかかってブルーノに当たって。あの時点で僕のレースは終わってましたね」

ーーピットストップのミスはそれまでに何度も出ていて、あれが最初ではなかったよね?

「そうそう、あれは調査不足もあった。金属って熱で膨張するじゃないですか? 走ってるうちに熱でナットが膨張して大きくなるから、通常の状態でギリギリで(ホイールガンに)填まってたものが、すんなり填まらなくなってて。単純に少し削ってれば良かったっていう、『なんだそれ?』みたいなこともあったりね。『嘘やろ、そんなもんオレでも分かるやんけ!』みたいなね(苦笑)。最先端って言われながらも、そういうところは意外とアナログやったりするんですよ。ホント、何なんですかね?」

ーーブラジルGPでもピットのミスがあったよね?

「最後にまた悪いところが出たよね、『何、あのピットストップ?』みたいな(苦笑)。(作業が終わっても)信号変わらへんっていうエグいのもあったし。『えっ!?』みたいな感じですよ。信号のボタンのセッティングミスらしくて。それでももっと分かりやすく『行け、行け!』って(手振りで)やってくれたらいいのに、手のひらだけでちょちょっとやるから『えっ!? 小っさ!!』みたいな(苦笑)。あれがなければもっと前でフィニッシュできてたし、なんかもうそんなんばっかりでしたね」

ーー今年は不運が多かったけど、ドライバーとしては不運が続いた時にはどうするものなの?

「普通に、やるしかないんですよ。だって難しいですよ、運を変えるなんて無理でしょ? 運はもう、”運待ち”するしかないから」

ーー最後までそんな状態っていうのは、嫌じゃなかった?

「いやいや、しょうがないですよ。レースってそういうもんですよ。そりゃあ嫌やけど、嫌やとか言い出したら子どもじゃないんやから(苦笑)。そういうのも分かった上で頑張らないといけないんですよ」

ーーいつもレース前に入賞は「大丈夫ですよ」って言うじゃない? あの根拠は?

「言っとかないと。嘘でもそう言っとかないと、(運が)逃げていくでしょ。言って自分の士気を高めるんですよ」

ーー精神的に辛いよね?

「そりゃあ精神的には常に苦しいですよ。人生を生きていくっていうのは苦しいなって思いますよ。クルマに乗ることは楽しいけど、やっぱり難しい部分、苦しい部分はいっぱいあります。でも、それも含めてレースをするためやからしょうがないよね」

ーーレースってそんなに楽しい?

「楽しいですよぉ〜。もうね、結果を気にせず楽しくレースができたら幸せやろなって思う。でもね、僕らはプロやから結果も気にしないといけない。それって難しいんですよ」

ーー上位チームのクルマに乗れれば楽しいのかな?

「楽しいでしょうね、それで勝てるんやから。もちろん彼らも結果を気にしなきゃいけないけど、結果を残すのは(中団チームのクルマよりも)簡単じゃないですか。普通に走るだけで表彰台に乗れたりするわけで」

ーー今シーズンで一番精神的に厳しかった時期というのは?

「シーズンの最後も厳しいし、シーズン序盤も厳しいし、全部厳しかったですよ。でもまぁ、終盤戦が一番厳しかったかな。みんな来年のことを聞いてくるし、そんなこと聞かれても僕には分からへんし。嫌っていうか、分からへんもんは分からへんのやもん(苦笑)。決まってないのに何を言えばええんか分からへんし、みんな聞いてくるし、そりゃあ大変ですよ。決まらへんから僕もイライラするのに、さらにイライラするように聞いてくるから」

ーー終盤戦はレースに集中しきれないこともあった?

「まぁ、しょうがないよね、それは。影響あるっていうかね、なかなか辛いですよ。いろいろ言われ出すとイライラしてきて全然走られへんっていう(苦笑)。『来年は?』って言われたって、わからへんって!みたいなね」

ーー今シーズン一番難しかったのは?

「そりゃあ、メディアへの対応ですよ(笑)」

ーーレースの方では?(苦笑)

「結果は悪くないけど、ただ安定しなかったっていうだけで。それはトップチームと戦わなきゃいけないっていうチャレンジのせいでもあったと思います。そんなチャレンジをしなかったらもっとポイントが獲れてたかもしれない。ただ、そういう状況の中でチャレンジしたからこそ、チームが成長して鈴鹿で表彰台に乗れたのかもしれないし。どっちが良かったのか難しいところやけど、僕にとっては表彰台も大事やったし。どうポジティブにとるかやからね」

ーーチームの失敗が目立ったようにも見えたけど?

「去年までは戦ってるところが中間から後ろのチームやったけど、今年はもう調子が良かったらトップチームと戦えるレベルやったから、スタートにしてもピットストップにしてもトップチームと同じレベルにしないと戦えなかったわけです。それだけ求められるレベルが高くなってた。ほんなら、それだけリスクも背負わなあかん。っていう厳しい立場になったんですよ、今年の僕らっていうのは。だからそういうふうに(ミスが多かったように)見えるんですよね」

ーー失敗があったからこそ、あそこまで行けた?

「そうそう、失敗なくして成功と言えるかどうかっていうことですよ。失敗しなくてええんやったら、それに越したことはないけどね」

ーー改善をひとつずつ積み重ねていったからこそ、最後に鈴鹿で表彰台に乗れたと。

「うん。あれが最後じゃなかったら良かったんやけどね(苦笑)」

ーーチームに対する不満というか、限界が見えたなという感は?

「いや、そんなことないですよ。3年間このチームで走って、一緒にここまで来られたっていうのはあるしね。(BWMが撤退してプライベーターとして)出てきた時なんか、めちゃめちゃツラかった時やったからね。クルマに(スポンサーロゴが)ブリヂストンとCERTINAだけやったんやから(笑)。あんなクルマ初めて見たわ(苦笑)。よくここまで来たと思う。そういう意味では、そこに貢献できたのは良かったと思うし」

ーー鈴鹿で表彰台に立てた意味は大きかった?

「うん、大きかったですね。まぁまぁ、”思い出”ですよ」

ーーそう言うと「もうこれで終了か」って誤解する人もいると思うんだけど?(苦笑)

「違う、違う。50年後になっても言えるじゃないですか、『オレF1で表彰台に乗ったことあるんやで』って(笑)」

ーーでも「勝ったことあるんやで」って言ってもらわないと(笑)。

「そりゃそうですよ。まだこれからですよ。そのくらいの気持ちでね、楽しくやっていきますよ」

ーー表彰台に乗ったことで自分が変ったと思う?

「あんまり変ってないですね。それよりもツラくなりましたよ、もっと頑張らなあかんな、って」

ーー周りからの期待が大きくなった?

「うん」

ーーでも、シンガポールの時には「鈴鹿で表彰台に乗ったら泣くと思う」って言ってたのに。

「全然泣かなかったよね(笑)。まぁまぁ、得意の口だけっていうヤツやね(笑)。感動っていうか、自分の仕事やから、そこに感動があるっていうことはなくて、ホッとしたくらいですよ。でもまぁ、初めて見る景色じゃないから。フォーミュラ・トヨタでもあの(鈴鹿の)表彰台には乗ってるしね」

ーーその「泣くと思う」と言っていたのは、ここまでの苦労は鈴鹿での成功のための試練だったという意味で、運命だって感動すると言っていたよね。あの「運命だと思う」っていう発言は、現実派の小林可夢偉らしくないなと思ったんだけど。

「まさか表彰台に乗れるとは思ってなかったんですよ。だって、鈴鹿ですよ? まぁ僕らがいくら速いっていうても、なんだかんだ言うたってレッドブルが速いのは分かってたし、あのコースは抜けないし」

ーー『鈴鹿で乗れる運命だ』っていうのは、どんないきさつでそういう話になったの?

「チームへのプレッシャーですよ。鈴鹿では速いだろうと思って」

ーー誰に話していたの?

「みんなですよ、チームのね。行けるぞ、行けるぞって思ってたら、本当に行けたりするもんなんですよ。そういうの、あるでしょ? 実際、チームはよく成長もしたと思うし、頑張ってちゃんと仕事もしてくれたと思うし」

 

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今シーズンの自己評価は60点。でも、余裕でもっと上に行けたはず。
ドライビングは70点、クルマも70点、チームが40点……


ーー今シーズンを自己採点すると?

「60点!」

ーー結構低くない?

「まぁ、運の悪さマイナス20点、あと10点はボウリング(イギリスGPでのピットクルーをはねるミス)してしまったのと(苦笑)……あと何があったっけ? あ、韓国の1周目のミスも10点いっとこ(笑)」

ーードライビングとしては?

「自分のドライビングとしてはそんなに悪くなかったんですけどね。もうちょっと行ければいいかな、くらいで。だからまぁ70点くらいじゃない?」

ーーそれでも70点なんだ(苦笑)。

「たいぶタイヤにも合わせられるようになってきたし、悪くないんじゃいかなと思うけど、もちろん常に成長できる部分はあるし、100%満足いくことなんてないからね。でもまぁ、まだまだしっかり成長していってるっていうのは確認できてるから」

ーーでは、コクピット外、ドライビング以外では?

「全然ないよ、1点くらいやわ(笑) ドライビング以外って、何があるの?」

ーーチームをコントロールする技術みたいなものは?

「チームとの信頼関係は今までで一番良くなってるし、年を重ねるごとに良くなってると思う。まぁ、それだけ自分が大人になったっていう部分もあると思う。人間的にね。熱くならないで冷静に言えるようになったし」

ーー昔はそういうこともあったの?

「熱くなってよう分からんこと言うてたこともありました(苦笑)。セッティングでよう分からんようになってパニック状態になってたり、チームへの無線とかね。でも今はそんなこともなくしっかり言うべきことを言えるようになったから」

ーーチームの評価は?

「チームは70点とか80点とかあげとかなあかんのちゃあう?」

ーークルマは?

「あ、そういうこと!? 別々に採点!? じゃあチームは40点!(笑)『もっとできたよね』っていうね。で、クルマが70点くらいにしとこか」

ーーリザルトについては?

「60点かな」

ーーポイントではチームメイトに対して60対66で負けてしまったけど、入賞回数では9対7で上回ってるんだよね。

「惜しかったよね。いやまぁ、余裕で上に行けましたけどね、普通に走れてれば。

 最後のブラジルGPも、あの段階でアイツの前に出られるって分かってたらシューマッハに仕掛けに行かへんかったけど、もっとポジション上げないとダメやったでしょ? だから行ってみよと思って。あのまま終わっても僕的には何にも変わらへんからね。

 でもね、F1って簡単じゃないんだなぁということも知りましたね、今年は……」

 

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目の前に見えているF1での勝利という未来
その途中で崩れている橋をどう架け直すかという勝負


ーーシーズンが終わって日本に戻ってからも、シート獲得のために忙しい?

「全然オフじゃないですね。やることが多すぎて、いろんなことに忙殺されてます。でも目の前にあることを、できることから1つずつやっていくしかないですからね」

ーーこの先に向けて、具体的にどう考えているの?

「2014年はトップチームのシートに動きが出て来るんで、チャンスがあるんです。レッドブルも、マクラーレンも、フェラーリも、シートは確定していないから。2013年はそういうチャンスっていうのが実質的にフェラーリしかなかったんですよ。マクラーレンのあれ(ハミルトンが電撃的に離脱し2日後にペレス起用が決定)は本当に突発的なことやったから、僕らにはどうにもできないことやったしね。そういう意味で難しい年やったけど、2014年にはすごく可能性がある。

 でもそこに行くためには、2013年にしっかりと戦えて(上位チームに)見てもらえるチームに行くことが一番大事やから。今はとにかく、ポイントを獲って戦えるチーム、上のチームが見てくれるようなチームに残ることが重要なんです。そこが今、僕が一番目指すべきところやし、今の活動っていうのはそのための活動やから。

 そこまでの(トップチームという目的地まで)道筋が見えてるんですけど、その途中で橋が崩れてるみたいな状態なんですよ(苦笑)。その橋をどうやって直そうか、っていうのが今の状態ですね」

ーーファンの人が気になっているのは、その橋が黒色(ロータス)なのか緑&オレンジ色(フォースインディア)なのかっていうことだと思うんだけど。

「まぁまぁ、そういうところやろね、実際言うと。(目的に合うのは)その2チームしかないから」

ーー彼らとの交渉状況というのは?

「どのチームも手土産(スポンサー)を持っていかないと厳しい状態ですね。僕らも頑張ってはいるんですけど、今僕らが『これだけ持って行ける』っていう金額に対して、周りには『もっと持って行ける』っていうドライバーもいるし、ケタが違うみたいで。そういう状態で、苦戦はしてるんですけど、結局向こう(交渉相手のチーム側)が何を言うかっていうと、『パフォーマンスに関しては言うことはないし、心配はしていない』と。『でも他に30億、40億持ってくるというドライバーがいたら、その金額差をパフォーマンスでカバーできるのか?』っていうリアルな話もされるわけですよ。そしたら『そりゃそうやね』って言うしかないでしょ? 結局はカネなんですよ。ドライですよね」

ーー彼らとしても、気持ちとしては可夢偉を取りたいんだよね?

「そうなんです。それは間違いなくそう言ってくれてます。だから、持ち込み資金の金額では勝てないと思うけど、こっちもお金を持っていってできるだけその差を小さくした上で、あとはパフォーマンスを買ってもらうしかないんです。お金の問題だけじゃなくて、向こうにもいろいろと(外部からの政治的な)プレッシャーもあると思うし、そういう意味でも難しいと思うけど、やるしかないからね」

ーーオフに入ってからの1週間で、感触としては前進? 後退?

「本当に分かんないですよ、こればっかりは。自分自身の感触としては、良くなってますよ。『KAMUI SUPPORT』を始めたことによってすごく良くなってはいます。ただ、まだ企業からの支援というのがガンガン来るような状態じゃないっていうのが、難しいところですね。チームからすれば、この『KAMUI SUPPORT』でどれだけ集まるんだっていうのもあるじゃないですか? (今まで誰もやったことがない)未知の世界なわけだから。実際、まだF1のチームを回していけるような額ではないし、他のドライバーがどのくらい持ち込もうとしているのかといえば(チーム側は)普通にこの10倍、20倍っていう金額を言ってくるわけで。なかなか頭が痛いですよ」

ーーファンの人たちからすれば、いくらあればロータスに乗れるんだって知りたいと思うけど。

「それはね、正直なところチームは絶対に言わないんですよ。例えば僕が冗談で(持参金が)『20億』って言うても、向こうは『フフッ』って言うだけで。だからはっきりとした金額は言えないんですよ」

ーーそんな中でも名乗りを挙げてくれたスポンサーもいるわけだよね。

「話はしています。もちろん『KAMUI SUPPORT』の募金だけで行こうなんて思ってないし、精力的に活動してます。『よし、じゃあ一緒にチームと交渉しましょう』って言ってくれる企業が出て来てくれると、本当に力になります。(スポンサードすることによる)露出の量も、結構悪くないと思うんですけどね。

 でも、企業は時間がかかるというのもあるし、まずチームが決まらないと話も進められないし、話の順番が難しいんですよ。『チームはどこですか?』って言われても『すいません、まだ決まってないです』。『どれくらい出せばどれくらい露出するんですか?』って言われても『すいません、それもチームとの交渉次第です』ってなるから。自分の中で目処をつけて話をしてはいるけど、なかなか進みづらいですよね。だからこそ、この『KAMUI SUPPORT』で集まった現金はすごく大きいんです。チームに対して『これはいつでも動かせるお金だよ』って言えるわけですから。

 あと、個人では無理だけど、会社のお金としてなら100万円くらいの規模で出せるっていう声も結構あるんですよね。でも何らかの宣伝効果がないと会社の決済が下りないという問題もあって。どうしたらいいんですかね? 例えば僕のウェブサイトにロゴを載せて、支援してくれている企業ですって言えば、ファンの人たちもその企業のことを応援してくれるし良いかなって思ったりね」

ーーもし2013年にロータスかフォースインディアに乗れなかった場合、どうするつもり?

「2014年に向けて、どんな選択肢があるかっていうことですよね」

ーーケータハムやマルシアに乗ってでもF1に残るという選択肢もある?

「う〜ん、そこはあまり行きたくないんですよね……。そんなところで走っても、その先に繋がらないような気がするから。それよりも、自分のキャリアが終わってしまう可能性の方が大きいんじゃないかな。

 ポイントも獲れないようなチームに行ってしまうと、(自分の実力は)何も見せられない。ポイントが獲れないチームなんて、誰も見てくれないですよ。(周回遅れにされる時に)『邪魔しちゃダメだよ』くらいにしか言われへんのやから(苦笑)」

ーー夏休みまでにもう少し結果が出ていれば、交渉の状況は違ったものになっていたのかな?

「それはあるよね。ただ、それがあったとしても(シート争いの状況が)すっごく動いたかといえば、そんなこともないとは思うけどね。そこまでの結果によって交渉が上手く運べたとしたら、それはフェラーリくらいやったから。それ以外のチームとの交渉という意味では、そんなに違わなかったでしょうね」

ーーアロンソ主体の今のフェラーリには乗ってもしょうがないとは思わない?

「でも一応、もっと表彰台とか乗れるっちゃあ乗れるからね」

ーーナンバー2に徹するというのは、小林可夢偉として受け容れられる?

「まぁ、最初の1年、2年くらいはいいんじゃない? そこで結果を出して実力を認めてもらえば。アロンソは2016年までいるっていうてたっけ? 『なんだそれ?』っていう感じやけどね」

ーー自分が今F1にいる意味ってなんだと思う?

「意味?意味はね……F1って素晴らしいスポーツやと思うんですけど、やっぱりまずここで日本人が勝たないとだめでしょ。いつまでもスポンサーを持ってくるドライバーばっかりやとか言われてたら、腹立つでしょ? そろそろ勝って、1人くらい勝てるドライバーがいる国だ、くらいに思ってもらわないと。これだけ自動車メーカーがたくさんあって、そういう国が勝たないっていうのはオカシイんですよ。そのために、頑張りたいですね」

 

 1時間に渡って可夢偉はリラックスした様子で改めて2012年を振り返り、そして今の心境を語ってくれた。撮影のためホテルのロビーでカメラの前に立った可夢偉は、通りすがる人々の視線を浴びて「めっちゃ恥ずかしいやん」と言って照れた。

 歩きながら最後に年内にヨーロッパへ飛ぶことになりそうかと聞くと、可夢偉は困ったような表情をして言った。

「ホントに分かんないんですよ、チームがどう考えてるか……」

 そうしている間にも『KAMUI SUPPORT』への募金額は驚異的なペースで増え続け、1億8000万円を超えた。スポンサーも数社が支援の約束をしてくれた。可夢偉の資金は8億円を上回り、当初の目標であった1000万ユーロに近付いた。

 だがそれから約2週間後の12月18日、ロータスから可夢偉に連絡が入った。

 可夢偉は『KAMUI SUPPORT』の募金受付を終了し、ファンに対してメッセージを公開した。

 

 いつも温かいご応援をいただき本当にありがとうございます。

 「KAMUI SUPPORT」への皆様からのご協力ほんとうにありがとうございました。おかげさまで皆様の熱意がきっかけとなり、この数週間の間に日本企業数社様からのご支援を頂いていました。 なんとか当初の目標に近い800万ユーロ強の予算はありましたが、残念ながら僕が求めていた、戦えるチームでの2013年のレースシート獲得は不可能という状況になりました。

 この結果に僕自身非常に悔しいですが、なによりも「KAMUI SUPPORT」に寄付してくださった皆様、ならびに支援を申し出て下さっていた企業様のご期待に応えることができず、本当に申し訳なく思っております。

 2013年度の僕の活動については、F1以外のカテゴリーは考えていません。現在あるオプションのなかで、2014年にF1のトップチームのレースシートを獲得できるベストな道を選択したいと思っています。 その際にはあらためて発表させていただきますのでそれまでお待ち頂けたらと思います。

 また、この度のご報告を持って一度「KAMUI SUPPORT」の受付を終了させて頂きたいと思います。本当にありがとうございました。

皆様からの寄付金は、そのまま大切にお預かりして2014年度のF1レースシートを獲得するための資金とさせていただきます。

 今後とも応援のほどよろしくお願いいたします。

 

2012年12月18日

小林可夢偉

 

 2012年の苦しい戦い、そして2013年に向けたさらに苦しい状況。

 目の前に突きつけられた、安易な選択肢と、困難なチャレンジ。

 そんな中で可夢偉が選んだのは、勝利という夢に向かって挑戦を続ける道だった。

 可夢偉はその苦しみの中で、改めて自分を見詰め直し、自らのアイデンティティを確かめ直したはずだ。

 レースが楽しいから。やるからには勝ちたいから。日本人としての誇りを見せたいから。

 それは、自分がこれまでに歩んできた夢への軌跡。

 そして、もうすぐにでも手の届きそうなところに見えている夢への軌跡。その道を、可夢偉はなんとか歩んでいこうとしている。

 2014年に向けて、可夢偉はどんな道を選ぶのか。

 可夢偉の夢に向けた挑戦は、まだ終わっていない。

ITEM2012-0067-24

(text by Mineoki YONEYA / photo by Wri2, Sauber)

 

2012年12月20日発行

IITEM2012-0067 / FOLB-0041

 

 

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