REPORT【報道】

20140207-01

 

 小林可夢偉がF1に復帰したことでトヨタがF1復帰に向けて動き出しているのではないかとの噂がある。だが、現実的に考えればその可能性は極めて低いと言わざるを得ないだろう。

 

 そもそも、こうした噂が浮上するきっかけとなったのは、ケータハムが1月21日の今季体制発表時に「TMGの風洞使用権」をリリースに明記したことにある。TMGとはご存じの通り2009年までのトヨタF1の活動拠点だったトヨタの子会社だ。

 

 しかしこれがトヨタ本社の意向とは全く別の場所で進められた案件であることは明らかだ。TMGの風洞はフェラーリやマクラーレンが使用するなど、F1のトップチームでさえこぞって使いたがる最高レベルの施設だ。というのも、様々な角度からのデータが一度に測定できるなどデータ収集効率が良く、レギュレーションで風洞稼働時間に対して制限が加えられるようになってからは、コストパフォーマンスならぬタイムパフォーマンスの良さで重宝されているからだ。2010年以来、TMGには様々なチームの風洞担当スタッフが派遣され、TMGの2基ある風洞は3交代制で24時間稼働しっぱなしという状態だ。

 

 つまり、F1チームとしては「使いたくても使えない」という状態。それをケータハムに優先的に使わせてあげるというのが今回のTMGとの取り決めだったようだ。その背景には、TMGの木下美明社長(下写真・中央)の意向が反映されているものと見られ、これは本社の豊田章男社長とは全く別のところで動いているものだ。

 

 そもそも可夢偉はTDP(トヨタ・ヤングドライバーズ・プログラム)ドライバーであり、TMGと契約を交わしてユーロF3やGP2参戦を経てF1までたどり着いた。トヨタの支援でF1までたどり着いたトヨタ系ドライバーであることに違いはないが、トヨタのF1撤退後の2010年末で契約が切れてからは完全にトヨタからの支援関係は切れている。むしろTDPでの支援はいわゆる奨学金のような位置づけで、F1でサラリーを得ているのなら移籍金としてその返済を迫られるような状況だった(中嶋一貴も同様の立場だったが、現在はフリー契約となっている)。可夢偉側からすれば、現在はトヨタを憎む理由こそあれ、トヨタドライバーと言われる理由などひとつもないのだ。もう可夢偉とトヨタを結びつけて考えることすら非現実的だと言える。

 

 今回の風洞使用を巡るTMGとケータハムの間のコラボレーションは、こうした背景に責任を感じた木下社長の配慮とも、この関係を利用した移籍金の完済が目的とも言われている。いずれにしても、トヨタのF1復帰に向けた動きでないことは明らかだ。

 

20140207-03

 

 木下社長は学生時代に自らラリー活動にハマり、インディのエンジンで成功を収めた後にトヨタ本社のモータースポーツ部長から2005年にTMGの社長に転任した人物。生粋のレース屋の魂を持った人物で、トヨタF1チームの問題点を見極めてマイク・ガスコインをクビにし、チームを上昇気流に乗せたのも彼だ。

 

 F1撤退時には自らのトヨタでの将来を捨て、TMGのMBO(買収)によるF1活動存続を模索した。それが本社によって拒否されると、今度はF1チームへの風洞のカスタマー使用などによるTMGの収益を元にしたWEC(世界耐久選手権)参戦を決断。世間ではトヨタ・チームと言われているが、実際にはトヨタ本社からの支援はなく、他のワークスチームとは比べものにならないほど極めて限られたTMGのリソースで活動している。トヨタという巨大自動車メーカーのワークス活動ではなく、木下社長というレース屋の情熱でなんとか回っているプロジェクトなのだ。しかしその木下社長の定年も近く、来年以降のWEC参戦継続は難しいだろうと見られている。

 

 一方、豊田章男社長は世間では「クルマ好き」「モータースポーツ好き」という好印象で語られることが多いが、実際にはF1は大嫌いだ。モータースポーツが好きと言っても、自分で参加できるモータースポーツにしか興味がない。それが自身が立ち上げた『GAZOO Racing』で展開している86/BRZレースやニュルブルクリンク24時間耐久レースなどの活動だが、世間一般の消費者からすれば現実離れした活動であることは明らかだ。それがトヨタ自動車の市販車の売り上げ増に繋がるとも思えない。

 

 さらには、TMGを潰そうという意思も持っているという。トヨタはベルギーのブリュッセルにヨーロッパの拠点がありドイツにTMGは必要ないというのが名目だが、実際には自分で立ち上げたわけでもないTMGがF1やWECで実績を残すのがイヤだというくだらない理由の方が大きいという。だからこそ、他メーカーに売却するのではなく、完全に更地にすることを望んでいるという。超優良企業とも言えるTMGを潰すなど正気の沙汰とは思えないが、経営的理論よりも個人的感情の方が上回るのが豊田社長を絶対的君主としたトヨタの現経営体制だ。まるで北朝鮮政府のようだと非難する声すらある。

 

 だからこそ豊田社長はTMG側の動きに対して即座に反応し「私が社長でいる限りF1復帰はあり得ない」などと宣言したのだ。TMG側の真意がどうであれ、これをF1復帰への機運を作ろうとする社内的駆け引きだとみたのだろう。

 

20140207-02

 

 現実的に考えれば、F1の新型パワーユニットを設計しF1に供給することは極めて難しい。かつてF1用エンジンを開発し現在はWECのハイブリッドシステムを開発しているTMGでも、本社の東富士研究所の技術的バックアップがなければ難しいだろう。ましてや、新型F1パワーユニットの莫大な開発費を考えれば、3チームには供給しなければペイはできないという状況の中で、F1復帰は現実的なストーリーとは言えない。

 

 トヨタのF1復帰を期待するなら、豊田社長の言葉通り彼の退任を願うしかない。

 

(text by 米家 峰起 / photo by Wri2)

 

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  • コメント (2)
    • ManGok
    • 2014年 2月 08日

    米屋さん凄い

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