【F1ドライバーってこんなヤツ】セバスチャン・フェッテル「疑問に対して答えがだせなくなった」
2022年限りでF1から引退することを表明したセバスチャン・フェッテルですが、その理由はひとつではないものの、一番大きかったのは「これで良いのか?という疑問が自分の中でどんどん大きくなっていき、それに対して答えが出せなかった」ということ。
2006年にデビューしてからずっとF1が生活の中心であり続けてきたものの、ここ数年はそうとは断言できなくなってきたと明かしていました。F1マシンをドライブすればアドレナリンが溢れ出しそんな疑問は吹き飛んでしまう、こんな興奮はF1でしか味わえないし離れれば恋しく思うだろうとは言いながらも、アストンマーティンに移籍してからトップ争いができなくなり、これまでのようなモチベーションが保てなってきているのも事実だと認めていました。
それに加えて妻や子供たちとの時間を大切にしたいという思いも強くなり、家族をサーキットに連れてこないフェッテルとしてはそれを実現するにはF1ドライバーとしての仕事を離れるしかなかったというわけです。
それと同時に、ブラジルでペドロ・ディニスが運営する無農薬の農場を訪れたり養蜂農家を視察したりと、ここ数年のフェッテルは環境問題や人権問題にも興味を示してきていました。彼自身の言葉を借りれば、自分の身の回りのことをもっと良く知りたい、知って何が大切なのか考えたいというだけ。
フェッテルは具体的に語りはしませんでしたが、身の回りの世界で何が起きているのかを知って考えた結果、F1ではレースを続けにくくなってしまったというのも引退の一要因としてあったのだと思います。フェッテルが所属しているアストンマーティンには今季からサウジアラムコがタイトルスポンサーとして加わり、石油を中心とした巨大エネルギー企業のアラムコであり、人権問題を軽視しているサウジアラビアの国営企業であり、今年のサウジアラビアGPでは出国禁止をちらつかせてドライバーたちにレース出走を強いたその国の国営企業からスポンサードを受けるというのも、フェッテルにとっては受け入れがたいことだったのでしょう。そして、現状で現役を続けるためにはそのチームのシートしかなかったということも。
以前にもお伝えしましたが、フェッテルはステアリングを握ればアグレッシブですがクルマの外では非常に素朴な1人の人間です。今のF1ドライバーの中でも最も人間らしい素朴さを持ったフェッテルですから、そういった部分でも耐えがたかったのだと思います。
フェッテル自身がまだ「これが正解なのかは分からない」と語っていましたが、彼の中でF1が最大のプライオリティでなくなっていたことは事実。ハミルトンやアロンソもことあるたびに語りますが、F1で戦うにはそれ以外の全てを犠牲にして生活の全てをF1に注ぐくらいの努力が必要です。
ですからきっと、この決断が正解であろうとなかろうと、フェッテルとその家族にとってはこれが一番の幸せに繋がるのでしょう。
真面目な難しい話をするときは真剣な表情で、いつものフェッテルとは違ってジョークも程々に、しかし引退発表とは似つかわしくないくらいに自然な笑顔もあり和やかな雰囲気で受け答えが行なわれたのを見れば、彼の中でも自然とその答えが出た理由も分かったように感じられました。
(text by 米家 峰起 / photo by 米家 峰起, Aston Martin)
なるほどー。