RACE【レース】

20140429-04

 

「ニコ、今ここでプッシュだ。アロンソをパスするためだ」

 33周目にアロンソがピットイン。

 2回ストップで走り切るためには最終スティントを23周も走らなければならず、これはかなり際どい判断だと言えた。しかしラバーがなくなってからピットインしたのでは遅すぎる。

 ロズベルグは37周目まで引っ張るが、ターン11で左フロントをロックさせてコースオフを喫してしまう。彼のトレッドはもう完全摩耗の状態だった。

「これがクリフだ。ラバーがなくなった!」

 そのままピットに飛び込んだが、35周目から自己ベストを連発していたアロンソの後ろでコースに戻ることになったことは言うまでもない。

 同じ周にピットインしたリカルドは、34周目にピットストップを終えて2回ストップ作戦へと戻していたフェッテルの前でコースに戻っている。

「ダニエル、君のタイヤは最後まで問題なく走れるよ」

 第2スティントのタイヤセットの摩耗レベルをチェックしたエンジニアから、リカルドへと無線が飛ぶ。

 タイヤを換えてファステストラップを記録したロズベルグに比べて、同じ39周目にリカルドが記録した自己ベストタイムは1秒も遅かった。これが現状のドライでのメルセデスAMGとレッドブルの差だ。

 そのロズベルグとて、万全の状態で走っているわけではない。テレメトリーがなく、漠然とした状況の中で前を行くアロンソを追いかけている。

「ニコ、燃料残量の数字を読み上げてくれ」

「33.5。すごくノイジーだよ、これ。煩わしいからもうやべるべきだ!」

「分かった。燃料は最後まで問題ないよ」

 2回目のタイヤ交換からチェッカーまで23周というロングスティントを走り切るためにペースを抑えるアロンソのテールは瞬く間に近付き、42周目のバックストレートでロズベルグは易々とアロンソに並びかけて抜き去った。アロンソとフェラーリが見ているのは異次元のロズベルグではなく、現実的な表彰台争いの競争相手、4位のリカルドだ。2人の差は6秒。

 

 

 

「ダニエル、フェッテルとの差は12秒。アロンソをキャッチできるぞ!」

 レッドブルが終盤に追いかけて来ることはフェラーリも分かっていた。だからこそ、それに対抗するために最後にタイヤのグリップを温存しておいたのだ。

 このグランプリ週末の直前にチーム代表の交代劇が起こり、急きょ上海へとやって来た新代表マルコ・マティアッチもピットウォールから戦況を見守る。もちろん彼にやれることはまだないが、チームとしてはこのまま表彰台も手にすることなく序盤フライアウェイ戦を終えてヨーロッパに戻ることはできない。この3位のポジションは意地でも守らねばならないのだ。

「ダニエル、アロンソはかなりペースを対抗してきた。でもプッシュし続けろ。最後に何か問題が起きるかもしれないんだから」

 その差は4秒のままそれ以上縮まらなくなった。そして見事にフェラーリは逃げ切って今シーズン初の表彰台を手に入れて見せた。

 バーレーンGP後のテストから反撃を開始した跳ね馬は、すぐにその効果を結果へと繋げて次なる一歩を踏み出したのだ。それに比べると、未だにRB10のポテンシャルを引き出し切れない王者フェッテルといい、好走こそ見せるものの戦略がスムーズに運ばず表彰台に手が届かないリカルドといい、レッドブルはどこかちぐはぐな印象が拭えない。

 

20140429-05B

 

 スタートからライバル不在の中で首位を独走し続けたハミルトンは、全開でマシンの限界まで攻める必要がなかったがためにタイヤをいたわり、パワーユニットをいたわり、誰よりも楽なレースをしていた。

「ミディアムはさっきのタイヤよりも少し厳しいね。少しグレイニングが出て来たよ」

 第2スティントでタイヤに不安があれば、高速コーナーでのペースを少し抑えれば良いだけのことだった。それ以外は、ターゲットのラップタイムと燃料消費量に対するデルタ(差)表示だけを見てドライビングを続ける淡々としたレースだった。

 チームの側もすでに、勝ち方は心得ている。速いマシンを手にして、勝利までの道筋でやるべきこともシステマチックに構築されている。

「ルイス、万一セーフティカーが入った場合に備えて、ペースを抑えてタイヤをいたわっておいてくれ」

 バーレーンGPで学んだ教訓も、しっかりと最終スティントに生きていた。

 今のメルセデスAMGは自分たちのやるべきことをきちんとこなし、2台のマシンを1-2でゴールへと持ち帰る。マレーシアGPで初めての1-2フィニッシュを達成して以来、これで3戦連続のトップ2独占。開幕戦とてハミルトンのトラブルがなければ同じ結果になっていたことだろう。

「あれ? 今チェッカーフラッグを受けなかった?」

 最終ラップに入っていったハミルトンが無線で言った。

 もちろんそれを視認していないチームは「あと1周だ」と伝え、全車が56周のレースを走り切った。実際、後方では小林可夢偉が最終ラップに狙い澄ましてマルシアのマシンを抜き去り17番手を奪い取った。

 狙うは唯一のオーバーテイクポイントであるバックストレートエンドのヘアピン。バックストレートの2つ手前のコーナーで仕掛けると見せかけて相手のライン取りを苦しくさせ、ストレートの立ち上がり加速を削いだ。可夢偉は自分のストレートスピードが格段に遅いからこそ、抜き返されるのを防ぐために最終ラップに仕掛けたのだ。

 しかし後になって確認してみれば、ポストに立っていたマーシャルが誤って1周早くチェッカーフラッグを振ってしまい、慌てて引っ込めたものの事実は覆らず。スポーティングレギュレーションに則ってレースは54周目終了時点でフィニッシュ扱いとなった。

 だが、それも首位を快走したハミルトンにとってはどうでも良いことだった。

 

20140429-07

 

 現状、優勝争いは圧倒的な速さを誇るメルセデスAMGのみに与えられた特権だ。そしてその2台のうち1台が問題を抱えれば、首位は当然一人旅となる。そうなれば、どんなにタイヤに厳しいサーキットであろうと充分にタイヤをいたわって走ることも可能になる。

 靄のかかった曇天の上海でも、首位を快走するハミルトンの前だけは進むべき道を光が照らし出していた。だがそれは天に与えられたものではなく、与えられるために努力を重ねてきたからこそ手にすることができたものだ。

 いくつもの苦難が降りかかったロズベルグは自らの手で道を切り拓き、意地でも表彰台を持ち帰りたかったフェラーリもまた自らの力で進むべき道を見つけ出した。

 大変革の混乱の中で迎えた2014年シーズンも序盤戦が終わり、舞台は第二幕へと進もうとしている。

 その第二幕でも主役を張るのはメルセデスAMGの二人なのだろうか、それとも別の役者が舞台の中央へと躍り出るのだろうか。いずれにしてもそこは、実力のみがスポットライトを引き寄せる舞台。立つべき場所は自らの力で掴み取らなければならないのだ。

 

20140429-06

20140429-08

 

 

(text by 米家 峰起 / photo by Wri2)

 

 

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