【USGP】徹底分析:ハミルトン一人旅、戦略ミスの目立った各陣営
第18戦USGPは、ルイス・ハミルトンの圧勝。スタートで出遅れたニコ・ロズベルグは、ダニエル・リカルドを逆転して2位を確保するのが精一杯でした。その後方ではマックス・フェルスタッペンとキミ・ライコネンがリタイアを強いられ、セバスチャン・フェッテルが4位。
マクラーレン・ホンダはVSCの幸運もあって戦略が上手く機能し、3強チームに次ぐポジションである5位を勝ち獲りました。しかし純粋なペースでいえばウイリアムズ、フォースインディアの方が優れていたことは明らかでした。
実際の各チーム各ドライバーのペースがどうだったのか、決勝の全車全ラップタイムを分析してみましょう。
下地の色は赤がスーパーソフト、黄がソフト、グレーがミディアムタイヤを表わしています。タイムの赤字はピットストップ、青字は自己ベストタイムを表わしています。
こちらはピレリによる各車のタイヤ戦略表。
そして主要ドライバーのラップタイム推移をグラフ化して比較してみましょう。
さらに、各ドライバーのポジションとトップからのタイム差もグラフ化してみます。
後方を見ながらマシンを労ったハミルトン
ロズベルグは逆転狙いの戦略をVSCで断念
ハミルトン(緑色線)のペース推移を見ると、第1&2スティントのソフトでも第3スティントのミディアムでも、デグラデーションはほとんどありません。特に終盤にロズベルグ(緑色点線)とのギャップがじわじわと縮まってきていることを見ても明らかなように、ハミルトンは完全にペースをコントロールしています。
これはタイヤを労っていただけでなく、「マシンを労るべくエンジンモードを落としていた」(トト・ウォルフ)ことも影響しています。いずれにしても、ロズベルグがスタートでリカルド(紺色線)に抑え込まれた時点でハミルトンの敵はいなくなり、完全に独走状態になったのです。
ロズベルグは最初のピットストップをリカルドより2周遅らせたことで逆転ができず、2回目のピットストップまで前を抑え込まれ続けることになりました。チームもそれを見越してか、ロズベルグにはミディアムタイヤを装着し、コース上での追い抜きは諦めて第2スティントを長く引っ張り、最終スティントを短くしてソフトタイヤもしくはスーパーソフトタイヤで攻める戦略を採ったものと思われます。
これによって、最終スティントでミディアムを履かなければならないハミルトンに対し、ソフトもしくはスーパーソフトで攻勢をかけることさえも視野に入れていたはずです。
リカルドが25周目にピットインしたのに対し、ロズベルグはステイアウト。しかしミディアムタイヤで引っ張るロズベルグは新品のミディアムを履いたリカルドと同等かやや遅いペースでしか走ることができず、このままではピットストップで再びリカルドの後方に戻ることになる展開に。
31周目にフェルスタッペンのリタイアによるVSC導入中にピットに飛び込んだため、タイムロスを小さく留めてリカルドの前に留まることができました。しかしこれは同時にハミルトン追撃を諦める決断でもありました。ハミルトンと同じミディアムタイヤに交換し、ロズベルグのレースはここで2位が確定してしまったのです。
リカルドはソフトタイヤのペースが振るわず
フェルスタッペンもデグラの大きさに苦しむ
リカルド(紺色線)は第2スティントに履いたソフトタイヤのペースが振るわず、デグラデーションもあっという間に進んでしまいました。ミディアムタイヤのロズベルグに対してギャップを広げることもできていません。
第3スティントのミディアムはペースもデグラデーションもそれほど悪くはありませんが、VSC中のピットストップで前に留まったロズベルグを追いかけるものの、追い付いて追い越すまでの速さはありませんでした。
Q2をソフトタイヤで突破してソフトでスタートしたフェルスタッペン(紺色点線)ですが、そのせいでスタート直後のペースが伸びず、フェッテル(赤色線)からの猛攻を受けることに。結局は周りのピットストップに合わせてわずか9周でピットインすることになり、ソフトスタートのメリットは皆無だったと言うべきでしょう。
再びソフトを履いた第2スティントは、ライコネンをオーバーテイクすることに成功してロズベルグの背後に迫ったものの、スティント最初のアタックが悪影響を及ぼしたのか後半はデグラデーションが一気に進み26周目にピットイン。チームからのピットインの指示があったと勘違いして入ってきてしまい大きく時間をロスすることになりましたが、その勘違いにはタイヤのグリップが大きく低下していたこともあったのでしょう。
完全に2強に差を付けられたフェラーリ
ライコネンはジリ貧の3ストップ作戦
フェラーリ勢はCOTAで完全に2強チームに差を広げられてしまいました。フェッテル(赤色線)はスーパーソフトで14周目まで引っ張ったものの、その終盤のペースはタイヤ交換を終えた他車より1〜1.5秒も遅く、ピットストップを終えると上位5台とのギャップはさらに開いてしまいました。
その後はソフト、ミディアムとつないでおり、第1スティントを長く引っ張った意味はどこにもなく、非常に不可解な戦略だと言えます。それでもフェッテルのソフトタイヤのペースはまずまずで、同じソフトを履くライコネン(赤色点線)はペースが早々に低下しています。
このデグラデーションが予想以上に大きかったのか、ライコネンは2回目のピットストップで3回ストップ作戦への変更を決断し、スーパーソフトを履くアグレッシブな戦略を採りました。この間にハイペースで走ってフェルスタッペンとのギャップを一気に縮めていきますが、逆転はできずに3回目のピットストップへ。
このピットアウト時にホイールナットが締まっておらず、リバースギアでピットレーン入口から戻ったためリタイアを余儀なくされましたが、いずれにしてもこの戦略は失敗で、フェッテルの後方でレースを終えることになっていたはず。レッドブル追撃を目指すための戦略というよりも、デグラデーションの大きさに直面して対処法的に3ストップへと転じたと言うべきなのかも知れません。
アロンソの5位入賞はVSCとトロロッソの判断ミス
純粋な速さではウイリアムズとフォースインディアに軍配
5位フィニッシュを果たしたフェルナンド・アロンソ(グレー色線)ですが、第1・第2スティントのペースは1ステップ柔らかいタイヤを履くフェリペ・マッサ(水色線)やカルロス・サインツ(ブルー線)に完敗。ソフトタイヤのデグラデーションに不安を抱えていて第2スティントにミディアムを履いたのかもしれませんが、本来であればソフトタイヤで攻めても良かったのではないでしょうか。
第3スティントは、ソフトタイヤのデグラデーションに苦しむサインツと、そこに抑え込まれてしまったマッサよりも速いペースで走行。チームとしてはタイヤのライフに不安を抱えていたといいますが、これをきちんと最後まで保たせたアロンソの腕はさすがと言うべきでしょう。
逆に、VSCの直前にピットストップしたマッサは、本来サインツとアロンソがこの後にピットストップして再び前に出るはずだったのが、VSC中にピットインしたサインツに前に居座られてしまい、予想外の展開に。しかしタイヤのグリップ低下に苦しむサインツをコース上で抜ききれなかったのが最大の敗因だったと言えるでしょう。
トロロッソとしても、VSCで予定より早めにピットに飛び込んだサインツにソフトタイヤを履かせたのは失敗でした。ダニール・クビアトがソフトタイヤでスタートから21周を走り切っていたためこれで残り25周を走ることはできると判断したのでしょうが、残りあと僅かという53周目にはメインコンパウンドの部分は使い切ってしまったと見られ大きくペースが低下。これで最後にアロンソにも為す術なく抜かれることとなったのです。
スタートで後方に下がったセルジオ・ペレス(オレンジ線)がジェンソン・バトン(グレー点線)をしっかりと逆転して8位に浮上したことからも、フォースインディアの方が速かったことは一目瞭然。純粋なペースではウイリアムズとフォースインディアに負けていたのです。
マクラーレン・ホンダにとっては、アロンソのドライビングの素晴らしさはもちろんのこと、VSCとトロロッソの判断ミスに助けられた5位入賞だったと言えるのです。
(text by 米家 峰起 / photo by MercedesAMG, Red Bull, Ferrari, McLaren, Pirelli)
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