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【2023 Rd.9 CAN】決勝総括③:角田裕毅、あったはず入賞のチャンスを自ら捨てる【戦略分析】

【2023 Rd.9 CAN】決勝総括③:角田裕毅、あったはず入賞のチャンスを自ら捨てる【戦略分析】

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 2023年の第9戦カナダGP決勝で11位に終わった角田裕毅のレース戦略を分析していこう。

 

 全ドライバーのギャップをグラフ化すると以下のようになる。横軸が周回数、縦軸がギャップで、一番上がトップランナーで、下に行くほどトップとのギャップが大きくなる。

 

 

 ⑫アルファタウリは予選よりも決勝ペースが優れていることと、角田裕毅(紺色・細線)は予選での進路妨害による3グリッド降格ペナルティもあり19番グリッドスタートとなったことから、1周目にピットインしてフリーエアで本来のペースで走行する戦略を採った。この時点では1周目にハードに履き替えて70周目まで走り切る実質ノンストップ作戦がプランAだった。

 

 当然ながら、この後ピットインするドライバーたちの前に出ても、やがて追いつかれる。それを最後まで抑え切らなければ実質ノンストップ作戦は上手くいかないが、アルファタウリはDRSオフ時の最高速をウイリアムズより速くセットアップしており(つまり薄いリアウイングを使用)、トレインを引っ張って抑え込む戦略は予選前から固められたものだった。

 

 なお、1周で捨てるにもかかわらずミディアムでスタートしたのは、ターン1までの距離が短いためソフトを履いてもそれほどポジションアップが望めないことと、混走でのリスクを避けること、そして万一1周目にセーフティカーが入って同様の戦略を採るマシンが中団勢に多ければ、角田は逆にステイアウトして長く走る戦略を想定していたからだと思われる。スタート5分前のタイヤ装着時点では周囲のマシンがどのタイヤを履いているか分からず、ソフトで同様の戦略を採るマシンの方が多い可能性もあったからだ。

 

 実際には1周目にピットインしたのは角田だけで、フリーエアでニコ・ヒュルケンベルグ(白色・細線)やオスカー・ピアストリ(オレンジ色・太線)が抑えるトレイン集団よりも速いペースで周回。ギャップを1周0.5〜1秒ずつ縮めていった。

 

 そして12周目の時点でエステバン・オコン(水色・太線)とピアストリ以外の中団勢をピットウインドウ内に捕えていたが、セーフティカーが出たことでランド・ノリス(オレンジ色・細線)、アレクサンダー・アルボン(濃水色・太線)の2台を交わすことはできず、さらにバルテリ・ボッタス(深紅色・太線)とケビン・マグヌッセン(白色・太線)がステイアウトしたため13位に浮上するに留まった。

 

 実際にはすでに4台がピットインを済ませており、このままセーフティカーが出ずレーシングコンディションで各車がピットインしていけば、角田はピアストリの後方7位に浮上した。ただしフェラーリ勢とセルジオ・ペレス(青色・細線)はロングスティントで引っ張り、中団勢がいなくなったところでペースを上げたはずなので彼らの後方10位が実質的なポジションだったと言うべきだろう。

 

 つまりセーフティカーの出動で3つポジションを失った角田だが、それよりも痛かったのはギャップがなくなりDRSトレイン状態になってしまったことだ。⑩ステイアウトのマグヌッセンを先頭としたDRSトレインが形成され、オコン、ボッタス、ノリス、ピアストリ、アルボンが順にペースの上がらないマグヌッセンを抜いていったが、⑪角田はなかなかマグヌッセンを攻略できずスタック。

 

 その間にアルボンとのギャップが3.5秒に広がってしまったが、中団上位勢はまだ角田のピットウインドウ内であったため焦る必要は無かった。

 

 

 ⑫しかし、その後方で31周目にヒュルケンベルグ、32周目に周冠宇、33周目にガスリーがピットインし、ヒュルケンベルグはすでにアンダーカットレンジに入り、周冠宇は右リアに手間取って後退したがガスリーにアンダーカットされそうになったため、アルファタウリはここで角田をピットインさせてガスリーの前をキープする戦略を選んだ。マグヌッセンに対するアンダーカットでもあったが、翌周ピットインされればカバーされるため無意味だった。

 

 ⑬ギリギリのピットイン決断だったため右フロントタイヤの持ち出しが間に合わず、マシンが通過するのをクルーがガレージ内で待つこととなり、静止時間は6.4秒。約4秒をロスしてガスリーの後方に下がってしまった。マグヌッセンはニック・デ・フリース(紺色・太線)との攻防で後退したが、これがなければマグヌッセンにはしっかりとカバーされていたことになる。

 

 ⑭事実、第3スティントでは前のガスリーのペースに着いていくことができず、周回遅れのマグヌッセンに抜かれてダーティエアでペース低下を余儀なくされている。そのため、ガスリーはアルボントレインまで追いついているが、角田はギャップを縮めることなくレースを終えてしまっている。

 

 以下は、アルファタウリが採った戦略(選択肢A)以外にどんな戦略が有り得たのか、検討してみよう。

 

【選択肢B】タイヤが最後まで保つかどうかは不確定要素だったが、ステイアウトしてタイヤが保てばアルボンの後方8位フィニッシュ。2台抜かれても10位。

 

 しかしここでピットインした時点ですでにヒュルケンベルグとストロールに抜かれ15位。ガスリーに抜かれて16位。ヒュルケンベルグとマグヌッセンが後退しても14位。ラッセルがリタイアしても13位。ライバルたちもタイヤが同じであるため入賞のチャンスはほぼない。

 

 つまり、2回目のピットストップをした時点で入賞のチャンスはなくなり、タイヤを最後まで保たせながらポジションを守り切ることしか入賞の可能性はなかった。それなのに、アルファタウリは入賞の可能性がある方の戦略(選択肢B)を捨て、入賞の可能性がない方の戦略を採ってしまったのだ。

 

【選択肢C】⑮27周目にストロールが2回目のピットインをした時点で角田もピットインしていれば、ストロールの前で戻りヒュルケンベルグ、周冠宇、ガスリーを抑えてさらにマグヌッセンをアンダーカットできた可能性もあるが、ストロールと同じようにピアストリの前10位まで浮上するにはアストンマーティンと同等のペースがなければならず、アルファタウリのマシンでは難しかったと考えられる。それでもまだ、34周目まで引っ張るよりは入賞のチャンスがあったことは確かで、戦略を変更するならストロールの前で戻れるうちにやるべきだった。

 

【選択肢D】マグヌッセンに抑え込まれた角田だったが、これをクリアしてアルボンに付いていくことができれば、当初の実質ノンストップ作戦は採り続けやすかった。マグヌッセンはスタートからハードタイヤで走り続けており、いずれはピットインすることは明らかだった。

 

 であれば、角田ではなくその後方のデ・フリースをピットインさせ、マグヌッセンに対してアンダーカットを仕掛けることでマグヌッセンをピットインさせ、角田の前をフリーエアにする戦略が採れたはずだった。結果的にタイヤが最後まで保ったかどうかは分からないが、選択肢Bを採るにしても選択肢Aを採るにしても、まずはこのデ・フリースを使ってマグヌッセンをクリアにするというアクションを取るべきだったと言える。

 

 いずれにしてもアルファタウリは、失うもののない状況から入賞のためにギャンブル的戦略を採ったはずなのに、入賞のチャンスが最も低い戦略を採ってしまった。入賞圏外で走っているということはすなわち前を向いてレースをしなければならない状況にあったはずなのに、後ろを見てレースをしたことで確実にあったはずの入賞チャンスを自ら捨ててしまった。

 

 

(text by 米家 峰起 / photo by Pirelli)

 

 

 

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