05/02
【ホンダF1復帰への“現在地”】ホンダからレースは切り離せない、もう撤退はしない(5/5)
2015年にF1に戻ってくるホンダに対しては、ファンの間でも様々な期待と不安が入り混じっていることだろう。マクラーレン・ホンダとしてF1に復活し、果たしてどれだけのパフォーマンスを見せられるのか? またすぐに撤退という道をたどるのではないか?
その背景には、今のホンダF1プロジェクトを取り巻く状況が見えてこず、パワーユニットの開発状況もマクラーレンとの関係も、何もかもが不明瞭で漠然としていることが理由にあるのではないだろうか。
そんな中、FIAからの要請によって中国GPのFIA会見に出席することとなったF1プロジェクト責任者の新井康久氏(本田技術研究所・専務執行役員)にホンダF1プロジェクトの今を詳しく聞いた。
ーー第3期までのホンダとは違うという感覚がある?
「開発も製造も全てオールホンダにこだわってやっていくということはないだろうなと思っています。自分たちの技術の全てが尖っているわけではないし、いろんな方とコラボレーションをしたり技術を使ったりしながらやっていかないと勝負はできないと思います。他メーカーさんが作ったものを選ぶとか、お前のところの製品がダメだから勝てないんだとかいうことではなくて、我々が技術コンセプトを作って、それを実現してくれるところと一緒にやるということです。そして我々がその技術コンセプトに対して責任を負うと。
例えば他のパワーユニットメーカーさんだって、インジェクターはボッシュだったりマネッティマレリだったりといった他メーカーを使うということをしています。自分たちが中で削りだしたものが全て良いというわけじゃい。市販車だって同じですよね。全ての部品を自分たちで作っているわけではなくて、ホンダが設計していろんなサプライヤーさんに依頼して作って頂いた部品がたくさんあります。それと同じことですね」
ーーそれは日本のメーカー、日本製のパワーユニットということになりますか?
「経済産業省的な言い方をすればメイドインジャパン的な感じになるかもしれませんが(苦笑)、それにこだわっているわけではありません。一流のプロフェッショナルなものを作らないと勝てない世界ですし、勝つためにチョイスする、勝つために協力をして頂く、勝つためにお願いをして一緒にやるということですね」
ーースーパーフォーミュラやスーパーGTといった国内のレースでも今季からパワーユニット規定が変わって、ホンダさんは苦戦されていますが、F1のパワーユニットは大丈夫なんだろうかという不安の声もあるわけですが?
「国内用のエンジンがなぜダメなのかは理解していますし、そこは真摯に反省してなんとかしようとしています。F1用のパワーユニットは似たコンセプトの部分もありますが、それとは全然違いますから、同じようなことになるとは思っていません。もちろんフタを開けてみれば同じようなことになる可能性だってありますから、現時点では真摯に反省をして努力するのみです。
スーパーGTはNSX-CONCEPTということで出ているのでハイブリッドは譲れないのでウチだけハイブリッドにしているんですが、メチャクチャ制限されているので美味しさが全くないし、車重ハンディだけを背負って走っているような状態で。出力的にも20数kWですから、F1にはほとんど参考にならないくらいですし、もうちょっと使わせてもらってレースを楽しませて欲しいなというのが本音ですけどね」
ーー真摯に反省すべき点というのは?
「時間がなくなってくると、妥協してしまうわけです。『まぁこれでいいだろう』と。そこで止まってしまうと、相手はそのまま進化し続けて負けてしまう。ですから、『ウチが考えていることは相手も絶対やっているはずだ』と踏みとどまって、もう1回『これで本当に良いのか?』と考える。
そうすると、どんどん時間がなくなって苦しくなっていくんですね。今のF1プロジェクトがまさにそうです。だから、いつ最後のエンジンができるのかということがハッキリとしていない。『これで良いのか?』という自問自答を繰り返しているわけです。最後はもう、時間との戦いですよね」
ーー今季の3メーカーのパワーユニットの熟成具合を見れば、実戦や実走テストの意義の大きさも痛感されていると思いますが、今後のテスト予定に変更は?
「開幕前のテストでマクラーレンと一緒に一気に熟成することに集中するしかないですね。レース実戦の経験はマクラーレンの側にはありますし、(メルセデスAMGとの関係上)言えることと言えないことがあるとは思いますが、我々と合体した後は『こうした方が良い、ああした方が良い』という指針は示すことはできるだろうし、そういう意味ではものすごく遅れたところからスタートすることはないだろうとは思っています。
ただ、セットアップしてみたらエンジンがかからないなんてことになると、4日間しかないテストのうち1日がパーになっちゃうわけです。ああいうふうにならないようにしないといけないなとは思いますね」
ーー1月までは実走テストはしない?
「今のところ考えていません。というか時間的に難しいんです。8月とか9月に実走テストができたら、そりゃ嬉しいですよ(笑)。でも、“モノ”がないですから。車体側も間に合わないでしょうしね。
こうやって見ていると、走らせた方が良いという部分はたくさんあると思います。気持ちとしては、今すぐにでも今あるユニットを積んで鈴鹿でも走らせれば、いろんなことが学べるんだろうなと思います。
ただ、古いクルマに最新のパワーユニットを合体させるというのは、これは大変なことです。どこに搭載したら良いんだ?というレベルだし、考えたくもないですね(苦笑)。それって新車を作るのと同じことですから。よく言われるんですよ、『鈴鹿で走れば良いじゃないですか?』って。いやね、クルマを作るだけでも本当に大変なことですから。写真を見るだけでも、今年のクルマのカウルの中って『これはすごいな』というくらいゴチャゴチャでしょ? 我々はまだ1つずつバラバラにやっていますけど、これを全部パッケージングするとやっぱりああなるんだろうなと思います。あれで何も起きない方が不思議ですよ。何も起きなかったとしても、それでOKなんじゃなくて、なぜ何も起きないのかも考えておかないといけない。たまたま何も起きていないんじゃなくて、きちんと動いているから何も起きていないんだということを確認しなきゃいけないんです」
ーーレッドブルがホンダに鞍替えかというような報道もありましたけど?(苦笑)
「ははは、まぁ光栄ですけど、レッドブルはインフィニティさんがついているからあり得ないでしょう。我々もまずはマクラーレンと一緒にしっかりとやって、周りから『お、これは!』と思われないと。そうやってF1界の仲間に入れてもらって、今回(第4期)はこの世界で腰を据えてやると決めましたから。このF1村の中で市民権を得てきちんと生活できるようにします」
ーー今回のF1復帰にあたっては、その意思は堅い?
「もう出入りしないぞ!という気持ちでいます。“出”はないぞ、と。だから“何年”ということも言わないし、そのつもりでやりましょうということは会社としても意思を確認しています。
ホンダという会社からレースを切り離すということは、我々もないと思っているし、ファンの方々もそう思ってくださっていると思います。それなのに出入りしているようでは信用を失ってしまうし、そんなことをやっているようではレースを大切にしている会社とは言えないでしょう。
ですから、そもそもウチの会社の存在意義の大きな部分を占めているんだということをもう一度改めて噛み締めて臨んでいます。だから参戦期間も決めていないし、“入”はあるけど“出”はありません」
(text by 米家 峰起 / photo by Wri2)
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