REGULAR【連載】

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 開幕戦ではフェラーリが静止時間2.2秒という驚くべきピットストップを見せましたが、その高速化の大きな要因になっているのがピットストップシグナルです。いまや下位チームのケータハムやマルシアも含めて全チームが使用。これがなければ貴重なタイムのロスは避けられず、ライバルとのピット争いに勝つことができないのですから、必須アイテムとなっているのです。

 

 今回のF1リアルスコープでは、我らがケータハムのピットストップシグナルを例に挙げて、その仕組みを解説していきましょう。

 

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 まず、ドライバーの目の前にぶら下がっているこのシグナル。赤と緑に光ります。

 

 当然、赤は『停止』、緑は『発進』を意味します。

 

 以前は『準備(ギアセレクト)』を意味する黄色のライトに変わってから緑に変わるという方式も使われていましたが、静止時間が3秒を切っている今のピットストップではそんなものを表示する意味もなく、ドライバーは停止したらすぐにギアをセレクトしてクラッチをつなぐのを待つので、黄色のライトは必要なくなっているのです。

 

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 ライトの裏側にもライト。これはチームクルー用のライトです。

 

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 こちらがピットストップシステムの全体像。ライトは低い位置に設置されているようにも見えますが、マシンがこの下を通過してもぶつからないよう、地上950mm(+車高ぶん)よりも高い位置に設置されています。

 

 上のガントリーから伸びたアームで高さと角度が調整できるようになっています。

 

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 ピットストップライトのシステムを運用するために最も重要なのが、実はこのホイールガンに隠された仕組みなんです。

 

 一見、何の変哲もないホイールガンのように見えますが、ガンの後ろ(カーボン製カバーが装着されている箇所)を支える左手の親指がくる位置にボタンがあります。ガン担当のクルーは、ナットを締め終わった瞬間にこのボタンを押します。

 

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 フロントジャッキも作業高速化の重要なアイテムのひとつ(この写真ではウイングを乗せる部分にはカバーがかけられています)。

 

 グリップの部分に赤・緑のライトが装着されていて、先ほどホイールガンのボタンのうちフロントの2輪が押されるとこのライトが緑に変わります。フロントタイヤのナットが締め終われば、もうジャッキアップの必要はありませんから。

 

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 フロントジャッキにはもうひとつ秘密があって、手元のこのブレーキレバーをひくと、ジャッキアップした状態で固定されて、ブレーキレバーを戻すと一瞬でジャッキダウンする仕組みになっています。こうすることで、ジャッキダウンも高速化しているわけです。

 

 さらにジャッキの軸(矢印が着いたところ)は左右にスイングするようになっていて、フロントジャッキマンはジャッキアップした直後に横へスイングして前もって逃げておきます(ブレーキレバーを握ればその状態で固定されます)。すると、ライトが緑になった瞬間にさっとジャッキを引き抜くだけで、クルマは安全に迅速にピットアウトしていけるというわけです。

 

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 リアジャッキにも赤・緑のライトがついていて、こちらは当然リア2輪のエアガンボタンが押されればジャッキダウンをします。つまり前後ジャッキマンは作業の様子を見るのではなく、このライトだけを見て操作すれば、最速でジャッキダウンができるという仕組みになっているのです。

 

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 とはいえ、ガンマンが間違ってボタンを押してしまうこともあります。そんな誤操作に備えて、ピットストップ作業全体をチェックする監督役がいて、こんなスイッチを握っています。クルマがピットインしてくるとこのスイッチを押した状態で待っていて、このスイッチが押されている間はドライバーの前のライトが緑に変わることはありません。

 

 もし誤操作でホイールガンのボタンが押されてしまっても、監督役が目視して作業が終わっていないと判断すれば、このボタンを押し続ければいいわけです。

 

 この役割は、たいていはチーフメカニックが務めます。以前ならロリポップマンと呼ばれていた人物です。ちなみに、ケータハムの場合は万一に備えてまだロリポップ型のライトも残しています。

 

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 また、ピットレーンを走ってくるクルマがいて「今はピットアウトできない」と判断した場合にも、ボタンを離さずに赤のままにしておき、クリアになったところでボタンを放して緑にします。チームにも寄りますが、もうひとつ別にスイッチを用意しておいて、この役目は別のスタッフが担う場合もあります。

 

 このシステムを導入することで無駄をなくしてピットストップを高速化すると同時に、以前ならピットアウトさせても良いかどうかを判断する責任をロリポップマンが一人で負っていたものを、ホイールガンマンなど複数のクルーで責任分担することにもなっていて、作業の安全性も高められているのです。

 

 もちろんこの他にも、マシンが停止する以前からホイールガンを当てに行くとか、タイヤを外す・付ける作業の正確さ、ドライバーの停止位置の正確さなどの人員的努力、さらにはホイールに組み込まれていて外れないナットの仕組みなど、ピットストップ高速化の工夫はいくつもあります。

 

 そういったところもこのF1リアルスコープでは続々と紹介していければと思っていますので、お楽しみに。

 

(text and photo by 米家 峰起)

 

 

 

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Comment

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  • コメント (1)
  1. senju1027
    • senju1027
    • 2014年 3月 20日

    こういう記事は、今までとは違う「ピットストップに関する面白み」が増えていいですね!

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