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【2020 Rd.13 ERM】徹底分析②:メルセデスAMGの手のひらで踊らされたレッドブル完敗【戦略分析】

【2020 Rd.13 ERM】徹底分析②:メルセデスAMGの手のひらで踊らされたレッドブル完敗【戦略分析】

2020

 

 2020年の第13戦エミリアロマーニャGP決勝のレースペース分析に続いて、戦略分析も行なっていこう。

 

 全マシンのトップからのタイムギャップをグラフ化すると以下のようになる。一番上がトップ走行ドライバーで、下に行くほどギャップが大きくなる。

 

 

 ①ペース分析で述べたとおり、レース序盤から上位3台と中団グループのギャップはどんどん広がっていく。ダニエル・リカルド(黄色・太線)が中団グループに蓋をするかたちになっている。

 

 ②3位ルイス・ハミルトン(緑色・太線)は4周目までは2位マックス・フェルスタッペン(紺色・太線)攻略を試みるが、イモラでは前走車をフォローして走ることが難しく、断念してタイヤマネージメントに徹しオーバーカットする戦略に切り替えた。17周目まで上位3台は膠着状態が続いたが、メルセデスAMGは首位バルテリ・ボッタス(緑色・細線)にプッシュさせてフェルスタッペンとのギャップを僅かに広げ、③フェルスタッペンにアンダーカットを仕掛けさせた。そして翌周ピットインしたボッタスがこれを抑えることに成功した。

 

 ④タイヤ交換後もボッタスのペースは振るわず、ミディアムのまま引っ張るハミルトンとのギャップはじわじわと広がっていく。当初はハミルトンのピットウインドウ内に留まってオーバーカットされないよう耐えていたが、29周目には逆転を許し、⑤30周目のVSC導入でハミルトンがピットインしボッタスの前でコースに復帰した(VSCがなくても逆転できていた)。

 

 これによってフェルスタッペンもオーバーカットされた。メルセデスAMG側から見れば、ボッタスにフェルスタッペンを抑えさせて2台同時にオーバーカットすることに成功したかたちになる。

 

 これを実現するためにメルセデスAMGはボッタス車がデブリの影響でダウンフォースを失っていることを把握していたものの、ピットストップが終わるまではボッタスに知らせなかった。もしレッドブルがこのことを察知すれば、わざわざこんなに早いタイミングでアンダーカットを仕掛ける必要はなかったからだ。レッドブル側にとってみれば、アンダーカットかオーバーカットかいずれかの戦略を選ばなければならず、メルセデスAMGは2台のうちどちらかがそれに対抗して同じ戦略で抑えに来て、もう1台はもう一方の戦略で前に出ようとすることは分かっていた。しかし、前を行くボッタスが本来のペースで走れない問題を抱えているなら、フェルスタッペンが戦うべき相手はハミルトンであり、であればこんなに早くライバルより先にピットインをする必要などなかった。アンダーカットされないギャップを維持していれば、ハミルトンがピットインした翌周にピットインすればポジションを守ることは可能だからだ。

 

 ⑥フェルスタッペンはボッタスにプレッシャーを掛けていくことで最終的にミスを誘いオーバーテイクに成功したものの、第1スティントで1.5秒後方を走っていたハミルトンはすでに13秒前方。19周目から41周目までボッタスに抑え込まれたことで約15秒を失ったことになる。

 

 レッドブルは全てメルセデスAMGの手のひらで踊らされていたに過ぎないということだ。ボッタスのデブリ影響によるペース低下は不運だったが、フェルスタッペンが戦えたはずのハミルトンと戦うこともできなかったのはレッドブルの完敗だと言える。

 

 

戦略違いの中団グループ首位争い

速さで勝ったレーシングポイント、運を引き寄せたルノー

 

 中団グループはリカルド(黄色・太線)が集団をリードし、各車が順位を入れ換えることなくトレイン状態で続く第1スティントとなった。順位の変動はマクラーレンのチームメイト同士の入れ替わりと、ピエール・ガスリーのリタイアのみだ。

 

 ピレリはソフトで24〜30周という想定を出していたが、⑦シャルル・ルクレール(赤色・細線)が13周目とかなり早い段階でピットインしてソフトタイヤを捨てた。彼らはフリー走行でソフトのグレイニングによるデグラデーションを見ており、こうなることは想定していたようだ。

 

 これを見て後続のランド・ノリス(オレンジ色・細線)とミディアムタイヤのエステバン・オコン(黄色・細線)までピットイン。さらに翌周にはリカルド、アレクサンダー・アルボン(紺色・細線)、ダニール・クビアト(白色・太線)もカバーに入り、カルロス・サインツ(オレンジ色・太線)も17周目にはピットイン。結局この集団はひとつも順位が入れ替わらないまま最初で最後となるはずのピットストップを終えた。

 

 第1スティントをミディアムでスタートした予選11位以下の集団はそのままステイアウトし、前方を走る。リカルドは自分たちがピットストップする頃までにミディアムスタート勢とのギャップが広がればピットストップ後にそのトラフィックの中に戻ることになるため、第1スティントでペースを抑えてミディアムスタート勢を引きつけておいた。ソフトタイヤをいたわる目的もあるが、ピットストップ後にトラフィックに引っかからないようにすることが、セルジオ・ペレス(ピンク色・太線)を筆頭としたミディアムスタート勢にオーバーカットさせない唯一の手段でもあったからだ。

 

 ⑧そのため、リカルドを先頭としたこの集団は本来、ピットストップ後はフリーエアで走れるはずだった。しかし1周目のトサでスピンを喫したケビン・マグヌッセン(黒色・細線)が遅れて単独で走っており、ここに引っかかって抑え込まれてしまった。

 

 リカルドは27周目にようやくマグヌッセンを攻略するが、これを見てペレスも充分なギャップがあるうちにピットインし、リカルドの前でコースに復帰。元々ミディアムスタートが有利という状況でもあったが、マグヌッセンの存在にも助けられて27周目まで引っ張ってピットインし、予選11位から中団トップへとジャンプアップを果たした。

 

 ⑩当然、リカルドより13周もフレッシュなハードタイヤを履くペレスはリカルドよりも速いペースで走行し、中団トップの座は確かなものとなっていた。

 

 

 ⑪しかし51周目のフェルスタッペンの事故でセーフティカー導入となり、ペレスはここでピットイン。Q3に進出していないため新品のソフトタイヤが残っており、これを履くことに疑問の余地はなかったのだろう。

 

 しかしこれを見た後続のリカルドとルクレール、アルボンがステイアウト。追い抜きが難しいイモラであり、ハードも熱さえ入って安定すればソフト勢を抑え込めるだけのペースがあったからだ。

 

 実際にリスタート直後の1周は、ペレス(ソフト)がアルボン(ハード)を、クビアト(ソフト)がルクレール(ハード)を抜いたものの、その後はリカルド(ハード)がクビアト(ソフト)を抑え、ルクレール(ハード)もペレス(ソフト)を抑え切った。

 

 ペレスはリスタート直後のメインストレートでアルボンに何度もブロックをされ、その間にクビアトが2台を抜いて前へ出て、ピラテラでルクレールを抜いた。しかしペレスはアルボンにビルヌーブまで抑え込まれたことでそれ以上の追い抜きチャンスを失ってしまった。1周目の“プライムタイム”を大幅に失ってしまったかたちだ。

 

 レーシングポイントはアイフェルGPでもレース終盤のセーフティカーで表彰台獲得のチャンスを逃している(長くステイアウトするリカルドがタイヤ交換のチャンスを得た)。Q2で敗退していただけに純粋な速さに自信が持てなかったのかもしれず、新品ソフトがあっただけにこれを使おうという誘惑にはまったのだろうが、抜きにくいイモラではトラックポジション重視の方が良かったかもしれない。

 

 もちろん3位のペレスがステイアウトすれば、後続のリカルドやアルボンはピットインしてソフトに履き替え、リスタート後にペレスを逆転したかもしれない。しかしフェラーリは徹底的にソフトを嫌っており、ソフトに履き替えるとは思えなかった。となればペレスの後ろにはルクレールという壁が1枚できるはず。ソフトに交換してリスタート直後の1周のみの追い抜きに賭けるくらいなら、ステイアウトして1周耐え抜く方に賭けた方が表彰台獲得の可能性は高かったのかもしれない。いずれにしてもセーフティカー導入がなければ中団トップでフィニッシュし表彰台に立っていたのはペレスだった。

 

 セバスチャン・フェッテル(赤色・太線)も39周目のピットストップでタイムロスがなければサインツの後方8位でフィニッシュできていたはずで、30周目のVSCがもう少し長引けばこれを利用してさらにロスタイムを小さくしルクレールの前で戻っていた可能性もある。キミ・ライコネン(深紅色・太線)の浮上も含めて、やはりQ3に進出して中古ソフトでスタートするよりも、Q2で敗退し新品ミディアムでスタートする方が有利だったと言える。

 

 

明暗の分かれたアルボンとクビアト

アルボンのおかげでリスタートから3台抜きで4位

 

 

 クビアトの戦略は他の中団グループとほぼ同じで、何もなければそのままアルボンの後方7位でフィニッシュすることになっていた。しかしセーフティカー導入時にピットインしてソフトに交換したことと、リスタート直後にアルボンがペレスと競っている間にターン2までに2台をまとめてパスし、すぐにルクレール追撃態勢に入ることができたことで4位をもぎ取ることができた。

 

 ハードのままステイアウトしたアルボンがクビアトをアシストするべくペレスを抑え込んだとは考えにくく、アルボンとしてはむしろ姉妹チームに4位を献上し自身の評価を下げるような走り。さらには温まりきっていないハードタイヤでスピンを喫するなど、散々なレースになった。

 

 もしレッドブルがアルボンに中団グループの他車以上の速さがあると考えていれば、⑦の段階で他車と同時にピットインさせるのではなく、数周ステイアウトさせてオーバーカットを狙ったはずだ。最初からそれを想定した上でソフトタイヤのグリップを徹底的に残しておくような走りをしたはずだ。それだけチームからアルボンに対する信頼は薄く、いつもフェルスタッペンよりも早くタイヤがタレる傾向にあるアルボンには早めのピットストップでアンダーカットを仕掛ける戦略を採らせるつもりだったのかもしれない。

 

(text by 米家 峰起 / photo by MercedesAMG, Renault, Racing Point, AlphaTauri)

 

 

 

 

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