【新車解説】トロロッソSTR13、いまだ暫定仕様。シーズン中の進化にこそ真価あり
2018年2月26日、トロロッソは2018年型マシンSTR13をバルセロナ合同テスト初日の朝に発表した。すでに2月14日にファイヤーアップを済ませ、2月21日にはファクトリーに近いイタリアのミサノでシェイクダウンとフィルミング走行をノートラブルで終えていた。
テクニカルディレクターの職はザウバーで2011年型マシンを手がけ評価を上げたジェームス・キーが引き続き務め、空力部門の責任者離脱という事態はあったものの、昨年9月のホンダとの提携決定からチーム初のワークス待遇という環境を最大限に生かしてSTR13を開発してきた。
ホンダはパワーユニット前方に吸気系やコンプレッサーが飛び出すかたちになっているためモノコック側の対応が必要となったが、基本的にはルノー製パワーユニットよりもコンパクトであったために当初の設計コンセプトを大きく変える必要もなくスムーズな開発が可能だったという。ホンダ側にとっても、補器類が収まるリアのスペースはマクラーレンよりも余裕があり、吸排気系をより理想に近いかたちにすることができたという。
ホンダが信頼性を最優先に掲げて開発してきたこともあるが、トロロッソ側にとっても車体側からパワーユニット側の変更を要求することができたり、ギアボックスなど車体側コンポーネントと接続してベンチテストが行えたりと、今までカスタマーの立場ではできなかった入念な準備が可能だったこともまたマシンパッケージ全体としての信頼性の確保に役立ったという。
マシンのディテールを見ていくと、①ノーズはメルセデスAMGとトロロッソだけが採用していた突起を持たない細身のタイプを捨てて一般的なツノ付きノーズへとスイッチした。ほとんどレイク角を付けないメルセデスAMGは別として、マシン全体のエアフローを考えればこちらの方がトロロッソのコンセプトには合っているということなのだろう。
ノーズの両脇につくカメラステーは、根元から前方に大きく湾曲したかたちとなり、カメラを積極的に整流に利用するほか、ステーの部分もノーズとの間に形成した隙間で気流を加速させる。ノーズ内には依然としてSダクトを装備して、ノーズ下からモノコック上へと気流を導いている。
フロントウイングは昨年型から基本コンセプトを踏襲しているが、メインプレーン2段目のスリットは長くなり、より多段ウイング化してきている。
②昨年メルセデスAMGとトロロッソだけが導入した懸架型フロントサスペンションはキープし、ジオメトリーやアーム形状を僅かにリファインしてきている。これによりサスアーム下には大きな空洞が生まれ、サイドポッド前方に向けてスムーズに気流を運ぶことができる。
バージボードも基本コンセプトは昨年型から踏襲し、最前方のエレメントをやや高くして下向きの整流フィンを追加。メインエレメント下の整流フィン(黒色)はフェラーリのような湾曲した形状に改めるなど、さらなる最適化を施している。
③ポッドフィンも基本的に昨年型(下写真)と同じ構成だが、モノコック側から伸びる水平フィンがさらに外側まで伸び、ポッドフィンの1枚目に接続するかたちに。こちらも昨年型の手法をさらに最適化しているといえる。
ロールフープのインダクションポッドは縦長から横長に変更しているが、これはHALOの生み出す乱流に対応したものだ。HALOには1枚の整流フィンが装着されている。
④サイドポッドのインダクション開口面積はそれほど小さくないが、サイドポッドのラジエター後方は従来に比べて強く落とし込まれ、パワーユニット周辺はコンパクトに絞り込まれている。リアエンドの横幅も昨年型に比べると小さく、このあたりにホンダRA618Hの効果が表われている。
⑤リアタイヤ前方のフロアフリットは1本から3本に増加。ギアボックスもRA618Hに合わせて刷新し、リアサスペンションの見直しによって昨年型が抱えたリアの不安定さは解消されているようだ。リアウイングは昨年型(下写真)をそのまま使用しているが、テストではセンターピラーにスリット入りで実質2枚構成のTウイングを装着して走行していた。
ここまで見てきたように、現段階のSTR13は昨年型の空力面をリファインすることに主眼が置かれており、ホンダへのスイッチによってリアエンドが刷新されたのとは対照的にマシンの前半分はほとんど昨年型のままだ。
チームはこれからシーズンを通して大幅なマシン開発を進める予定で、資金不足からアップデートができず失速してしまうという例年の悪習を絶つつもりだ。その一方でホンダもまずはコンサバティブな仕様で堅実なスタートを切り、シーズン中に大きなアップデートを投入していく。ある意味では、シーズン中の進化にこそトロロッソ・ホンダSTR13の真価が問われることになりそうだ。
(text by 米家 峰起 / photo by 米家 峰起, Toro Rosso)
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