【シンガポールGP】徹底分析:緊迫の終盤優勝争いの真実とは?
第15戦シンガポールGPは、2ストップ作戦に留まったニコ・ロズベルグと、最速の3ストップ作戦を採ったダニエル・リカルドが最後の最後に激しい攻防を繰り広げました。一方でルイス・ハミルトンはペースが振るわなかったものの、3ストップ作戦に切り替えることでキミ・ライコネンを逆転し3位を勝ち獲りました。
後方ではフェルナンド・アロンソが3強チームの6台に次ぐポジションでフィニッシュしましたが、予選で先行されたトロロッソやフォースインディアとの実力差はどうだったのでしょうか?
実際の各チーム各ドライバーのペースがどうだったのか、決勝の全車全ラップタイムを分析してみましょう。
下地の色は紫はウルトラソフト、赤がスーパーソフト、黄がソフトタイヤを表わしています。タイムの赤字はピットストップ、青字は自己ベストタイムを表わしています。
こちらはピレリによる各車のタイヤ戦略表。
そして主要ドライバーのラップタイム推移をグラフ化して比較してみましょう。
こちらはトップと各車のタイム差をグラフ化したもの。各車の位置関係が一目で分かります。
熾烈な最後の優勝争い
実はメルセデスAMGの用意周到な戦略
ポールポジションのロズベルグ(緑色線)は、ウルトラソフトの第1スティントは他車よりも速いペースで走行していますが、その後は2ストップ作戦で走り切るためにソフトタイヤを履き、ペースとしてはほぼ一定で推移しています。
この背景にはブレーキの過熱と摩耗を抑えるためにセーブを強いられていたこともありますが、スーパーソフトを履いたハミルトン(緑色点線)の最終スティントと較べても分かるように、タイヤのマネージメントによる影響の方が大きかったようです。最後はブレーキをフルに使ったにもかかわらず、ロズベルグのペースはほとんど伸びていません。
Q2をスーパーソフトで通過しスタートタイヤをスーパーソフトとしたリカルド(紺色線)でしたが、第1スティントのペースと長さを見る限りでは、この戦略は裏目に出たと言えます。第2スティントのスーパーソフトも後半は大きくペースが低下してしまっています。
最終スティントでも最初の一発は速かったものの、実はその後はラップごとにペースが低下し、最後はロズベルグがトラフィックに引っかかって0.5秒差まで迫ったものの、追い抜くまでのペース差はありませんでした。
むしろメルセデスAMGの方が一枚上手で、リカルドのペースを見ながらペースをコントロールしていたとみるべきでしょう。あと1周あれば逆転されたのではないかとも言われましたが、リカルドのペースが同じレートで下がっていたとしたら、1周あっても抜けなかった可能性は充分にあります。実はメルセデスAMGにとっては緊迫の優勝争いではなかったのかもしれません。
ハミルトン対ライコネンの3位争い
自力に劣るフェラーリは為す術なし
ハミルトン(緑色線)対ライコネン(赤色線)の3位争いに目を向けると、第1スティントのペースはほぼ同等ながら、第2スティントの前半はソフトのハミルトンに対しスーパーソフトを履いたライコネンの方がハイペースで、スティントの最後にはライコネンがオーバーテイクに成功します。
そしてソフトタイヤ同士にになった第3スティントでもライコネンの優位は続くかに思われましたが、38周目からハミルトンが一気にペースアップしているのが分かります。ここまでペースを抑えて走っていたのはソフトタイヤ中心で2ストップ作戦を考えていたためで、メルセデスAMG陣営がここで“プランB”の3ストップ作戦に切り替えたため、ハミルトンは本来の速さでプッシュし始めたのです。
この猛プッシュと45周目の一足先のピットインが当たり、翌周ピットインしたライコネンをアンダーカットして3位を再奪取。スーパーソフト同士の最終スティントはほぼ同等のペースであったことを見れば、メルセデスAMGは戦略によって3位表彰台を手繰り寄せたと言うべきでしょう。
ライコネンの4位転落はフェラーリの戦略ミスだったと非難する声もありましたが、ブレーキとタイヤのマネージメントから解放された瞬間のメルセデスAMGとフェラーリの地力の差を考えれば、3ストップへと変更されてしまえばアンダーカットを防ぐのは事実上不可能だったと言えます。実際、翌周に反応してピットインしても3位防衛はできなかったわけですから。
アグレッシブなウルトラソフト連投
フェッテル最後尾から殊勲の5位浮上
最後尾スタートのセバスチャン・フェッテル(赤色点線)は、序盤はトラフィックの中で下位集団のペースに付き合わされてしまっていますが、これは想定の範囲内であり、だからこそソフトタイヤを履いて長く引っ張り、他車がピットインしていく中でトラックポジションを上げていきました。
そしてウルトラソフトに換えた第2スティントでは他の誰よりも速いペースでプッシュ。最終スティントも同じくウルトラソフトで繋ぐアグレッシブな戦略を採り、やはりハイペースを見せて5位まで這い上がってきました。
抜きにくいシンガポールでこれだけのリカバリーを見せたというのは、戦略もさることながら、フェッテルの走りによるところも大きかったはず。これだけの実力があったのですから、上位グリッドからスタートしていれば間違いなく表彰台争い、もしかすると優勝争いに加わっていた可能性も充分にあるでしょう。
タイム差以上に混戦の中団グループ
マクラーレンの7位は余裕ではない
中団争いは熾烈を極めました。アロンソ(灰色線)、ダニール・クビアト(青色線)、フェリペ・マッサ(水色線)などはレースを通してほぼ同じペースで推移しています。ハースのエステバン・グティエレス(紫色線)も、トラフィックから抜け出た第2スティント以降はこの同じペースの集団に加わっています。
上位勢が3ストップ作戦で争ったのに対し、中団グループは2ストップ作戦による戦い。マクラーレンはウルトラソフト、スーパーソフト、ソフトとまんべんなく使いましたが、クビアトとマグヌッセンはスーパーソフト、グティエレスとマッサはウルトラソフト中心の戦略としました。
アロンソは7位を手に入れはしたものの、それほど余裕があったわけではないことが分かります。早めに2回目のピットストップを終えてトラックポジションを確保し、最後はソフトタイヤで最後まで走り切るという戦略が功を奏したと言えます。
一方で、1周目にウルトラソフトを捨てて実質1ストップで走り切ったセルジオ・ペレス(オレンジ色線)の走りは見事。最後は後続を抑え込むためにややペースが低下していますが、それでもしっかりと安定したペースを維持して最後まで走り切っています。
ケビン・マグヌッセン(黄色線)はスタートで10位まで浮上したという幸運に恵まれたことも大きかったものの、第2スティント以降をスーパーソフトとすることでその後も中団勢と遜色ないペースを維持し、第3スティントでは中団勢で最速のペースを記録しています。そのせいか最後はデグラデーションが進んで厳しい走りを強いられたものの、巡って来たチャンスをしっかりと掴んで10位は守り切り、久々の入賞を果たしたのはさすがです。
(text by 米家 峰起 / photo by MercedesAMG, Red Bull, Ferrari, Renault, McLaren, Pirelli)
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