【2023 Rd.12 HUN】金曜総括:0.674秒に16台の僅差、角田裕毅とリカルドの差は?
ハンガリーGPの金曜フリー走行ではシャルル・ルクレールがトップタイムを記録し、2位ランド・ノリスは0.015秒の僅差。そして3位にはピエール・ガスリーが0.232秒差、4位には0.248秒差で角田裕毅が続いた。
FP1がウエットコンディションとなり、実質的にFP2のみの走行。そして今週末はATA(オルタナティブタイヤアロケーション)が実施されたためタイヤセット数がハード3、ミディアム4、ソフト4となり、通常のレース週末と違い各セッション後のタイヤ返却数もFP1で1セット、FP2で1セット、FP3で2セットとなり、各セッションでのタイヤ使用配分も異なる。
加えて土日が気温30度弱、路面温度40〜50度という予報なのに対し、金曜は気温20度、路面温度32度と全く異なるコンディションであったため、ATAのタイヤ返却数を利用してFP2では走行を最小限に控え、FP3に予選・決勝向けのプログラムを先送りしたチームもある。例えばマックス・フェルスタッペンは各セッションで1セットずつしか使用しておらず、実質的にソフトで最小限の確認走行を行なっただけ。メルセデスAMGもFP1では未使用のソフトを捨て、FP2はミディアムのみ。そのため本来の実力が反映された結果となってはいない。
まず予選想定のパフォーマンスラン(ショートラン)の速さについて分析していこう。もちろん各車とも燃料搭載量やパワーユニットのモードも様々で正確な戦力比較は難しいが、おおよその傾向は掴むことができる。
FP2での各ミニセクターのベストを刻んだドライバーを図表にしたのがこちら。セグメント6と7はデータが取得できておらず不明となっている。
ストレートでハースが最速で、なおかつセクター1でプッシュしてニコ・ヒュルケンベルグが最速。しかしこれは各車ともセクター3までタイヤを保たせるために序盤にプッシュを控えているからだ。
中高速コーナーのターン5ではマクラーレン、ターン11ではレッドブルとやはりこの2チームが速さを見せる。さらにターン4ではアルピーヌが速さを見せ、ターン13までしっかりとタイヤを保たせている。
アルファタウリはターン5からの脱出と中低速のターン6〜7が最速となっている。
スピードトラップはターン1の310手前の地点で計測。そのためストレートエンドでは実際似はこれよりも10km/hほどさらに伸びている。
ハンガロリンクはドラッグよりもダウンフォース量が最優先となるため、各車ともドラッグ量を気にすることなくダウンフォースを付けてくる。その結果、ほぼ全てのマシンが300〜303km/hのレンジに収まっている。
その中でハースとウイリアムズはややストレート重視のセットアップで、アルファタウリはドラッグの大きさが目立つ。
こちらがロングラン中つまりDRSオフ時の最高速で、ここではアルピーヌが大幅に最速の最高速を記録している。DRSを使用していないリアウイングが立った状態で空気抵抗が最も小さいマシン、つまり付けているダウンフォース量が小さいと言える。アストンマーティンも同様の傾向がある。
逆にアルファタウリはDRS無しの状態ではライバル勢と同等の最高速であり、こちらも付けているダウンフォース量が小さい。
各ドライバーの自己ベストセクタータイムを並べ、理論上の自己ベストタイムを集計したのがこちら。
ルクレールはベストセクターがないが、理論値でも最速であり各セクターでバランス良くタイムを刻んでいる。角田裕毅、バルテリ・ボッタスは理論値ではさらにトップとの差が縮まり3位・4位。
そしてトップから10台が0.5秒、16台が0.674秒、17台が1秒以内にひしめいており、かなりの僅差になっている。
前述の通り今回のFP2の勢力図はATAやコンディションを踏まえた走行プログラムの違いもあり実力を反映したものとは言えないが、理論値だけを見れば1位フェラーリ、2マクラーレン、3位アルファタウリ、4位アルファロメオ、5位アルピーヌ、6位アストンマーティン、7位ハース、8位レッドブル、9位ウイリアムズ、10位メルセデスAMGとなる。ただしメルセデスAMGはミディアムで記録したタイムであり、ソフトとの差が0.4秒ほどあることを考えれば実質的に8位〜10位はかなりの僅差となる。4位アルファロメオもミディアムのタイムであり、0.4秒減算すればアルファロメオがトップとなる。
セクター1はコーナーが2つでストレート主体、セクター2は中速コーナーが連続、セクター3はコーナーが3つでストレート主体。しかしリアタイヤがオーバーヒートするため3つのセクター全てでタイヤを最適な状態に保つのは難しい。1周をどうまとめるかの勝負だ。
1位ルクレールはセクター2で稼ぐスタイルで、2位ノリスも同様。角田裕毅はセクター1は抑えているが、セクター2はトップレベルの速さであり、セクター3もルクレールと同等の速さを見せている。
ダニエル・リカルドは慣れないマシンで1周をまとめられなかったとしているが、すべてのセクターで角田に遅れを取っている。
2人のロガーデータを比較すると、ほぼ全てのコーナーでリカルドは角田に対してレイトブレーキングができておらず、ターン1では12mもブレーキ開始地点が早いうえに、コーナリング速度も角田より遅い。ターン1、ターン2、ターン9、ターン11、ターン12でそれぞれ0.1秒ずつゲインしている。逆に角田はターン4でボトムスピードがリカルドより遅く、2021年に苦い経験のあるターン4ではまだマージンを残して走っているものと思われる。アタックラップではリアのオーバーヒートによるデグラデーションが進行し、このベストラップでもターン4ですでにニュートラル状態になっている。
ブレーキングやボトムスピードを見る限り、リカルドはまだ不慣れなマシンゆえ充分にマージンを残して走っているものと思われる。
昨年のハンガリーGPがソフト(C4)とミディアム(C3)の2ストップ作戦となったことからも分かるように、今年の決勝はミディアム(C4)とハード(C3)が中心でソフト(C5)は使いづらいだろうと予想される。そのため各チームともFP2ではミディアムのロングランが中心で、昨年使用していないC5を見極めるべくレッドブルとフェラーリ、そしてアルファタウリだけがソフト(C5)でのロングランを行なった。ただしこれは前述の通りFP3で本格的なロングランをやることを前提としたものでしかない。
数値上はデグラデーションが小さく見えるが、これは普段使用されていないうえに雨が降ったため路面がグリーンな状態からどんどん向上していくトラックエボリューションの影響が大きく、実際にはタイヤ自体はかなりデグラデーションが進んでいる。
金曜の時点ではグレイニングによる磨耗促進とデグラデーションだが、日曜は路面によるこうした症状は治まり、リアのオーバーヒートを抑えることがカギになるものと見られている。
金曜終了時点での持ちタイヤはこの通りで、ハード、ミディアム、ソフトをそれぞれ3セットずつ残すのが主流になった。
タイヤは多くのチームがミディアムとソフトを1セットずつ使い、キャリーオーバーも最初運に抑えてFP3に新品タイヤを残している。ここからFP3で本格的な予選・決勝向けプログラムでどのタイヤをどう使うかが見どころで、特に決勝の中心となるミディアムとハードをどうロングランして行くかが注目だ。
(text by 米家 峰起 / photo by Pirelli)
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