【アプレゲールですいません。】F1とインディ論争、コメとパンみたいなもの?
ルイス・ハミルトンがインディカーを中傷して、それに対してインディのドライバーや関係者が反論しているという記事があちこちで報じられていますが、僕はそもそもこのハミルトンのコメントというのが事実なのかどうか、疑った方が良いような気がします。
というのも、最近の彼は自分のコメントについて非常に慎重で、以前のように何かをあからさまに批判したりはしないし率直な物言いはしないようかなり気をつかっているからです。
ものすごく上機嫌なときには調子に乗ってついつい言い過ぎてしまうこともありますが(スペインGP決勝後なんかがそうでした)、あれだけ結果が散々だったモナコGPの週末に彼がそんな調子に乗ってベラベラ喋るはずもありません。
ハミルトンクラスのドライバーが単独取材を受けることはないので、フランスのレキップの記事といっても会見などでのコメントを引用したものだと思いますが、僕が知る限りではそんなことは離していませんでした。土曜の予選後会見は時間の都合でいけませんでしたが、トト・ウォルフと2人並んで喋っていたのでそんなネガティブなことを軽々しく話すとも思えませんし。
喋ってもいないことを喋ったようにコメントとして書くというのは考えにくいことですが、全く違う話として喋ったことがそこだけ引用されてあのように使われたのかもしれませんし、モナコGPの前にもジェンソン・バトンのコメントがイギリスの記者に間違った意味で理解されて書かれてしまったということがあったくらいですから、取材者と被取材者の間での意思の疎通ができていないとこうなってしまうこともあるわけです。
仮にハミルトン自身の意図とは違った間違った引用だったとしたら、なぜこんな引用のされ方をしてしまったのかと言えば、それはF1界全体のインディに対する見方がこうだからです。
フェルナンド・アロンソの参戦によって注目が集まりましたが、基本的には下に見ているというか、「あれはレースではない」というのがヨーロッパの人たちの考え方です。それはF1界に限ったことではなくて、ヨーロッパ全体がそうで、実際に月曜日の新聞やテレビではインディ500のニュースはほぼゼロ。チラッとあっても「アロンソが参戦してリタイアしました」くらいのものでした。オランダの新聞なんて、オランダ人選手が優勝したジロ・デ・イタリアがドーンと1面でしたからね(苦笑)。
実際、フェルナンドがもの凄いドライバーだということはF1界でも周知の事実ではありますが、そうだとしてもF1界のドライバーたちは常に彼とコンマ数秒差で戦っているわけで、その彼が初挑戦でいきなり予選上位に行けてしまったり、トップを走れてしまうのは、「やっぱりインディのドライバーはF1より水準が低いのかねぇ……」なんていう声があちこちから聞こえて来たのも事実なのです。
F1ドライバーたちも、インディ500の中継を見るかと聞かれると決まって答えるのが「えっと、何時からなの?」というもの。で、「あぁ、その時間は空港に向かってるかもね」とかそんな感じ。実際、マクラーレンをはじめとした各チームのエンジニアたちも帰路についていましたし。マクラーレンのエンジニアの中には過去のインディ500レースを分析して「こういう展開がある」とか「こういう戦略が採れる」とか “プランA”から何パターンも作ってきてフェルナンドに渡したなんてのもあったそうですけどね。
とにかく、ヨーロッパにはそういう“空気感”みたいなものがあるから、ハミルトンがそれらしいことを少しでも言うとそれが引用されてああいう記事になってしまった、ということなのではないかと僕は想像しています。
ただ、僕は個人的にはF1とインディは似て非なるものだと思うし、そもそも較べるのが間違っているような気がします。たとえが適切かどうか分かりませんが、スーパーフォーミュラとスーパーGTのどっちが速いとかどっちが面白いとか、そういう議論は無意味じゃないですか? 両シリーズに同じドライバーが参戦していても結果は全然違うし、面白さのツボも違うわけで。
だから、F1とインディのどっちが良いとか悪いとかどっちが上とか下とかじゃなくて、それぞれが全然違うオンリーワンのもの、っていうことで良いんじゃないかなと思うんですよね。その中で、自分はF1が好き、あの人はインディが好き、この人は両方が好き、っていうだけのことで。
ある意味、ご飯とパンみたいなもんかな(笑)。日本人だからコメが好きっていうのと同じように、アメリカ人はインディが好きだし、ヨーロッパ人はF1が好き。日本人だってコメが好きな人もいればパンが好きな人もいる。それで良いんじゃないですかね?
(text by 米家 峰起 / photo by Honda)
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