【アプレゲールですいません。】ニコ・ロズベルグ、引退。
ニコ・ロズベルグの突然の引退表明にはビックリしました。最初にメルセデスAMGから来たメールを見たときは、エイプリルフールか何かみたいに冗談かと思いましたから(ちょうど前後してメルセデスAMGからはいろんなメールが来ていたので)。
『F1LIFE』にも最終戦を前にそれまでのチャンピオン争いの振り返りを書きましたが、僕としては今年のニコはハミルトンとの直接対決をしないまま最後まで来てしまって、最終戦はああいうかたちにはなりましたけど、やっぱり2人で優勝を争う直接対決ではなかったと思うんです。もちろん1年を戦い終えて最も多くのポイントを獲ったのがニコであり、だからこそ彼はタイトルにふさわしいし、その価値に違いはありません。しかし、直接対決で勝っていないことはニコ自身が誰よりも一番よく分かっていたのではないかと思います。
ニコは鈴鹿で勝ってタイトル争いが現実味を帯びたところからプレッシャーを感じ始めたと語っていました。それまでは「目の前のレースで勝つことだけを考える」といってプレッシャーから眼を逸らしてきたし、鈴鹿以降も同じように言い続けてはいたものの、プレッシャーから眼を逸らすことはできなかったのだと打ち明けたのです。
きっと今までに、ニコはこんな重圧の下でレースをしたことはなかったんだと思います。少なくとも、F1に来てからは一度もなかっただろうし、GP2やそれ以下のカテゴリーでもルイス・ハミルトンとのような強大なライバルが追いかけてくるプレッシャーというのは味わったことはなかったはずです。ニコはそれだけハミルトンの速さと強さ、そして恐さを良く知っているのです。
来年、チャンピオンとしてもう一度ゼロからハミルトンと戦って、勝つことができるのか? 今度はハミルトンがトラブルによる不利を背負わず、ゼロからの直接対決です。鈴鹿以降に経験したような巨大なプレッシャーともう一度戦うことはできるのか? はっきり言って、ニコにその自信はなかったのだと思います。
USGP以降はプレッシャーのせいで本来の走りができなかったとも打ち明けていましたが、その間には重圧と戦うために家族にも負担や犠牲を強いることになってしまったと、王座獲得直後の会見でも何度も語っていました。そして、家族とともにこの成功を祝うことができて本当に嬉しいのだと。
そんな様々な思いが去来して、ニコは引退を選んだのだと思います。
キャリアのピークで自ら引き際を決めることを、格好いいと言う人もいます。確かに美しい去り際かもしれません。
しかし、僕はそうは思いません。今年のニコが直接対決でハミルトンを下して王座を獲得したのなら、その選択も美しかったかもしれません。しかし、直接対決をすることなく2016年の王座を獲得したニコは、来年に待っていたはずの本当の直接対決に挑むことなく、退場したのです。
ニコには2016年の戦いを経て強くなった姿を見せて欲しかった。だから僕にとってはこの去り際はとても残念なものに感じられたのです。
ともあれ、彼が選んだ道ですから、我々はただ彼の第二の人生に幸多きことを祈るばかりです。
(text by 米家 峰起 / photographs by Paul Ripke)
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