【2017年新車解説】ルノーR.S.17、生まれ変わった完全新生マシン
2月21日、ルノーがロンドンで2017年型マシンR.S.17を発表した。
昨年からワークス参戦を再開したルノーだが、初年度は準備期間が充分でなかったこともあって今後に向けたチーム再編と基礎固めの1年と割り切り、2017年に向けて準備を整えてきた。その成果として完成したのがR.S.17だ。R.S.16はメルセデスAMG製PUを搭載していたロータスの2015年型モノコックにルノー製パワーユニットを載せただけのものだったこともあり、ルノーにとっては復帰後初の完全自社製作のマシンと言える。
ルノーはこのR.S.17で「いきなりトップに追い付けるとは思っていないが、トップとの差は縮めることができる」(シリル・アビテブール)としており、「去年は基礎固めの1年だったが、今年は結果に繋げる1年だ」という。
チームから発表されたCADデータに基づく精巧なCG画像と、発表会の数時間前に組み上がったばかりという実車には、多少の仕様の違いも見受けられる。発表会実車はすぐさま実走が可能な状態ではなく、一部にはカーボンや金属素材の本番仕様が間に合わずラピッドプロトタイピングで製造された仮パーツも使われていたようだ。1月6日には早々に発表会の日程をアナウンスし、1月26日にはカストロールとの5年提携発表、そして2月14日にはパワーユニットに火を入れる様子を公開していたが、マシン全体のパーツ製造と組み立ては直前までずれ込んだようだ。
そのR.S.17の詳細を解説していこう。
【ノーズ】トレンドの幅広ショートノーズ採用
昨年型R.S.16とは異なり、ノーズは幅広化してノーズ下へと気流を取り込むスタイルへと変わった。
フロントウイングのステーは後方へかなり長く伸ばし、ノーズに接する上面は内側に切れ込んで気流をノーズ下へ導く一方で、長く伸びた下方はノーズ内側とフロントウイング後方の気流を明確に分離し、フロントウイングのフラップ内側からサイドポッド前方へと気流をまっすぐクリーンに導くのに役立っている。
ノーズ内にはSダクトが内蔵されていて、ノーズ下面には吸気用のスリットがある。その後方には細い整流フィンが1対だけ装着されている。ノーズ両サイドの車載カメラハウジングはステーを介してノーズ本体との間には僅かに隙間を設け、積極的に整流に利用しようという狙いが見える。
【フロントウイング】今季も様々な仕様をトライか
フロントウイングは昨年型の最終仕様をそのまま進化させたもので、翼端板前端のフィンなどはロータス時代からエンストンが用いてきた手法だ。カスケードウイングはシンプルなものだが、発表会実車では内側にもう1枚の整流フェンスが付いている仕様になっており、昨年と同じようにサーキット特性によって様々な仕様を使い分けるものと見られる。
【サスペンション】メカニカル性能に優れた従来型を踏襲
サスペンションは前後ともシンプルな構成で、アーム形状も細くそれほど複雑なフォルムを纏ってはいない。できるだけ気流を阻害しないかたちで最低限の整流効果を持たせたものだ。伝統的にエンストンはメカニカルグリップに優れたマシンを作り上げる傾向があり、過度に空力を意識過ぎないところがしなやかな脚回りの理由なのかもしれない。
【サイドポッド】特徴的なポッドフィン周辺の空力処理
サイドポッド前端に装着されたポッドフィンは、下端が前方にS字型に湾曲しせり出す特徴的なフォルムをしている。下端には3本のスリットが入り、上端はS字型のフィンでサイドポッド上部に接続。そのフィンはポッド正面の3枚の整流フィンと組み合わせてポッド前端部の整流を担っている。なお、ポッド正面の整流フィンは発表会実車では2枚構成になっている。
コクピット脇からは昨年のレッドブルのような水平フィンが伸び、ミラーのステーもスリット入りで実質2枚構成(発表会実車はスリットなし)とするなど、サイドポッド前端周辺の気流にはかなり配慮しているのが分かる。
ポッドフィン前方のバージボードも大型で複雑な構成となっている。下部はかなり内側のモノコック下まで潜り込むほど湾曲し、後端のサイドポッドとの接続部も外側に小さなバージボードを持つなど複雑な形状をしている。
【リアカウル】大柄なボディワーク
ロールフープもR.S.17の特徴のひとつで、正面から見ると異様なほどにかなり横幅の大きな形状をしている。中央部はパワーユニットの吸気インテイクで、TCのコンプレッサーを経てICEの吸気バルブへと繋がっている。
両サイドは冷却機器用の冷却風インテイクで、昨年まではロールフープ脇にダクトとして装着していたもの。カウル内部の冷却装置レイアウトは定かではないが、おそらく従来の延長線上にあるのだろう。ただし今年からリアウイングが低くなったことで、ロールフープの上方から気流を取り込んでもリアウイングに当たる気流量(=ダウンフォース発生量)を阻害することがなくなり、こうした手法を採ることが可能になったものと考えられる。逆に言えば、リアウイングに当たる気流量を確保するために冷却風インテイクを上に持っていったとも言える。
リアのボディワークは思いのほか大柄で、サイドポッド後方は昨年のレッドブルRB12がカナダGPから導入したようななで肩のフォルムでコークボトル部の下部は内側に絞り込まれているものの、上方はおおきくせり出している。モノコック後方はそのままのサイズでリアエンドまでまっすぐに伸びており、断面積は大きいように見える。ボディをコンパクトに絞り込んでリアエンドに大量の気流を流し込むよりも、サイドポッドとリアカウル上面からそのままスムーズにリアエンドへ気流を導くというスタイルを採っているようだ。
当然のごとく、カウルの峰にはシャークフィンが装着されている。
【リアウイング】積極的な空力処理
リアウイングは翼端板の上部、前縁、下部にそれぞれスリットを持ち、昨年型とは異なり積極的に整流効果を追究している。ただしこれもシーズン中には様々な仕様が見られることになりそうだ。
【パワーユニット】95%刷新でメルセデスAMG追撃を狙う
ルノーはパワーユニットの95%を刷新し0.3秒のゲインを得たというが、これは昨年途中から限定的に導入したセミHCCI技術を全面的にICEに投入したことと、インフィニティのエネルギー回生技術を活用してERSを第二世代へと進化させたことによるもの。
昨年の段階ですでにフェラーリのパワーユニット性能にかなり近付いており、今季型ではメルセデスAMGとの性能差もかなり埋まっているとルノー陣営は言う。ちなみに、昨年型の開幕時点の公称値は「約875馬力」だったが、今季型では「900馬力以上」となっている。まだ完全に完成したとは言えず、シーズンを通した開発でさらに0.3秒ほどのゲインを得る目標を立てており、これでメルセデスAMGに追い付くつもりだ。
一方では重量削減も進められており、これがマシンパッケージ全体に寄与するところも大きい。旧型モノコックに強引にルノー製パワーユニットを載せただけの昨年型とは違い、パワーユニットと車体の両方がお互いの統合を前提に開発されてきており、飛躍的な進歩を見せることは間違いない。
チームは目標をランキング5位と控え目に掲げているが、表彰台への登壇を渇望していることも隠さない。生まれ変わった新生ルノーのマシンがどのような速さを秘めているのか、楽しみだ。
(text by 米家 峰起 / photo by Renault)
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