【決勝】戦略分析:角田裕毅のギャンブル戦略失敗、コラピントとのバトルが致命傷【2025 Rd.22 LAS】
第22戦ラスベガスGP決勝の角田裕毅は、ピットレーンスタートで1周目にピットインしてミディアムからハードに履き替え、最後まで走り切るギャンブル戦略を採った。しかしフランコ・コラピントら中団勢に引っかかってペースが上げられず、27周目にピットインしてミディアムに戻し挽回を図ったものの14位でフィニッシュ(最終結果は12位)するのが精一杯だった。
そんな第22戦ラスベガスGP決勝の角田裕毅の戦略を詳細に分析していこう。
【コラピントとのバトルが致命傷に】
全ドライバーの全ラップタイムと角田裕毅からのギャップをグラフ化するとこのようになる。
ラップタイムグラフ(上)は横軸が左から右へ周回数が進み、縦軸の上に行くほどペースが速いことを表わしている。ギャップグラフ(下)は縦軸が角田とのギャップで、0が角田、上に行くほど角田より前方、下に行くほど角田より後方を走っていることを表わしている。黄色いラインがピットウインドウ。各ラップの縦軸の「見た目」がそのまま各車の位置関係だ。
①角田裕毅(青色・点線)はピットレーンからミディアムタイヤでスタートし、大混乱が起きて大きくポジションを上げられた場合はミディアムでそのまま走行することも視野に入れていたはずだが、1周目に17位までしかポジションを上げられなかったため予定通りピットインしてハードに履き替え、最後まで走り切るギャンブル戦略を採った。
②2周目にVSCが出され、3台がピットイン。ピエール・ガスリー(ピンク色)とリアム・ローソン(紺色・点線)は角田の後方となり、アンドレア・キミ・アントネッリ(緑色・点線)だけがVSCの恩恵を受けてピットロスを6.5秒短縮し、角田の10秒前方となった。
③この時点で角田は中団勢のピットウインドウ外に出ているが、フリーエアで好ペースで走行したことで17周目までに8位オリバー・ベアマン(白色・点線)以下の全車のピットウインドウ内まで追い着き、実質的に前に出た。④実際にピットインしたベアマンとフェルナンド・アロンソ(深緑色・点線)は角田の後方に戻り、彼らに対してアンダーカットに成功している。
④しかし17周目にフランコ・コラピント(ピンク色・点線)に追い着いた角田は抑え込まれ、大幅にタイムロス。⑤一度はピットウインドウ内に収めたニコ・ヒュルケンベルグ(蛍光緑)とのギャップが再び急拡大し、特にオーバーテイクに失敗して逆にアロンソに先行を許した22周目以降は急激に中団勢とのギャップが拡大してしまった。
17周目から23周目の間に約8秒をロスし、⑥23周目には中団勢最後尾のエステバン・オコン(白色)まで全車がピットウインドウ外まで出てしまった。つまりこの時点で彼らがピットインしても角田の前であり、角田の入賞の望みはかなり薄くなってしまった。このロスが致命的で、この間に⑦イザック・アジャ(紺色)や⑧オスカー・ピアストリ(オレンジ色)、カルロス・サインツ(水色・点線)ら中団上位勢にはすでにカバーされてしまっている。
⑨25周目にコラピントがピットインしてようやくフリーエアになった角田に対し、プッシュの指示。ここで中団勢よりも速いペースで走行し、再び彼らのピットウインドウ内までギャップを縮めることができれば、入賞のチャンスを取り戻すことができる。
しかしペースは中団勢よりも遅く、ギャップはさらに拡大。完全に入賞の可能性がなくなったため、⑩27周目にピットインさせて1周目に履いていたミディアムに戻しプッシュする戦略へシフトした。ステイアウトしても中団勢とのギャップを縮めて入賞する可能性がほぼないため、僅かでも入賞の可能性がある方に賭けるのは当然のことだ。
⑪ここから角田はほぼ新品のミディアムでプッシュしてガスリーを追いかけ、42周目には追い着いて45周目にパス。20秒のピットロスは取り戻すことに成功したものの、アロンソを抜くことはできず、2回目のピットストップはゲインもロスも無い結果となった。
⑬ただし、ヒュルケンベルグを始め中団勢とのギャップが右肩上がりで拡大していることからも、ミディアムの角田のペースは中団勢よりも遅く、決して速くはなかったことが分かる。
【1周目ピットインの妥当性】
端的に言えば、アントネッリが3位まで浮上したこと(VSCがなくても8位フィニッシュで最終6位)からも明らかなように、1周目にピットインしてハードタイヤで最後まで走り切る戦略は正解だった。
しかしアントネッリがほとんどタイムロスなくコラピントやオコンを抜いていったのに対し、④角田はコラピントを抜けずに6周で約8秒をロス。これにより、フリーエアで実力を発揮してポジションを上げるというこの戦略の肝が果せず、戦略を成功に導くことができなかった。
4〜16周目で角田とアントネッリのギャップは2秒ほど拡大しており、ペース差は0.133秒/周程度。もしスムーズにコラピントをオーバーテイクできてアントネッリの13〜14秒後方に留まっていれば、⑦⑧アジャやサインツらは角田にアンダーカットされる前にピットインしてカバーしたはずで、角田は彼らの後方9位でフィニッシュした可能性が高い(最終結果は7位)。
アントネッリがピアストリやルクレールを抑え切ったことを見ても、角田は後方から20周ほどフレッシュなタイヤで追いかけてくるアロンソやベアマンは抑え切れた可能性が高い。
①1周目にステイアウトして2周目にVSC下でピットインしていれば、6.5秒ほどゲインしてアントネッリの3.5秒後方にいたことになる。コラピントをアントネッリとともにスムーズにオーバーテイク出来ていれば、4位アントネッリ〜7位サインツの集団でポジション争いができた。少なくともアジャの前8位でフィニッシュできた可能性が高い(最終結果は6位)。
ただし、2周目以降のVSCやSCを期待してステイアウトするというのはかなり難しかった。
スタート直後のデブリ回収作業の通例として、隊列が来るまでの時間にダブルイエローのみでマーシャルが作業に当たる。この場合、本来は隊列がやってくるまでに作業が完了しないのであればSCやVSCを出してマーシャルの安全を確保するのが通例だ。
しかし今回は1周目終了時点でVSCやSCが出ておらず、であれば作業が完了してVSCやSCは出ないと判断するのは当然だ。1周目にVSCが出されず2周目に出されたというのは、かなりイレギュラーなレース運営だったと言わざるを得ない。SC/VSC運用のガイドラインに沿って論理的に考えれば、2周目のVSCを予見して1周目にステイアウトすることは難しい。もしステイアウトしてVSCやSCが出なければ、その分だけフリーエアで走り前走車たちとのギャップを縮める周回数減ってしまうため、このギャンブル戦略を採るのであれば1周でも早くピットインするのは当然のことだからだ。
つまり、「VSCでピットインしていれば」という仮定はあまり意味がないと言える。
ただし前述の通り1周目にレーシングコンディションでピットインしたとしても、(VSCで6.5秒をゲインするチャンスは逃したとはいえ)アントネッリ以外のドライバーたちに対してロスをしたわけではない。アントネッリがVSCを味方に付けて上手くやったのは確かだが、角田がコラピントに引っかかってタイムロスしたことが最大のポイントであったことは、その前後の③と⑤のグラフの傾きが完全に逆転していることからも明らかだ(下はアントネッリ、コラピント、ヒュルケンベルグとのギャップ)。
(text by 米家 峰起 / photo by Pirelli)





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