【決勝】角田裕毅・全無線交信「なんで言ってくれなかったんだ!見たら分かっただろ!」(後編)【2025 Rd.20 MEX】
角田裕毅のメキシコシティGP決勝の後半を、全無線交信とともに再現しながら振り返っていく。
角田は第1スティントを引っ張ってチームプレイを果たし、36周目にピットイン。しかしここでリアジャッキに問題が発生し11.85秒のロングストップとなり、イザック・アジャに先行される。さらに翌周ピットインしたガブリエウ・ボルトレートにも先行されて実質12位へ。
残り35周をソフトタイヤで走り切るためにマネージメントをしつつアジャを抜いたものの、ボルトレートは抜けずに11位に終わった。
そんなレース後半を、レースエンジニアのリチャード・ウッドとの無線交信とともに解説する。
【第2スティント:新品ソフト】
【L37】(1:50.334)
PIT「ストラット12、ストラット12、訂正、ストラット10」
TSU「WHAT WAS THAT!?」
PIT「COLとの争い、OT使える」
PIT「OK MATE、残り35周だ」
PIT「高速マネージメントはしっかりやり続けてくれ」
ピットストップでリアジャッキが落下し11.85秒のロングストップに。ピットタイミングを巡ってフラストレーションをつのらせていたこともあり、角田は「一体何なんだ!?」と怒りをあらわにした。
ここから35周をソフトで走り切らなければならないため、すぐさま高速コーナーでのマネージメントをウッドが指示する。
【L38】(1:22.354)
PIT「USE オーバーテイク、オーバーテイクを押せ」
TSU「なんで言ってくれなかったんだ!」
PIT「インフォーメーションがなかったんだ、落ち着いてくれ」
TSU「見たら分かるだろ!」
PIT「我々は彼が後ろで戻ると想定していたんだ」
角田の翌周にピットインしたBORが、角田の目の前でコース復帰。これを見て角田は再びフラストレーションを爆発させる。自身は指示された通り高速コーナーでマネージメントしており、BORと争っているならマネージメントを抑えてひとまず前に出るというトライができたはずだったからだ。
ピットインしたマシンがどこで戻るか(自車とのデルタ)はトラッカー上に自動的に表示されるため、ウッドが「後ろで戻る想定だった」というのはその表示が角田の後ろになっていたということだ。角田のピットストップミスで混乱が生じていたのか、レッドブルのシミュレーションに問題があったのかは分からない。
【L39】(1:21.853)
【L40】(1:21.885)
PIT「同じエイジのソフトを履いているVER21.2、BOR21.1」
【L41】(1:21.853)
PIT「VERとのメインロスは高速コーナー、高速マネージメントを下げろ」
TSU「XXXXXXXX(ノイズ)」
PIT「ストレートは無線がプアだ」
TSU「ダーティエアの影響だ!」
PIT「VERも前と同じギャップだ」
【L42】(1:21.745)
PIT「さっきの周の高速マネージメントは良かった。メインロスはT2〜3のローリングスピード」
【L43】(1:21.633)
PIT「VERとBORは21秒台中盤、HADは22秒台前半」
VERや前後のドライバーたちのラップタイム、そして有利・不利の比較データをウッドが角田に伝える。角田はダーティエアの影響を感じながら高速コーナーでマネージメントしているが、VERも前のHAMに追い着きつつあり条件はそれほど違わなかった。
ピットストップでポジションを落としたものの、前の9位OCO、10位BOR、11位HADは射程圏内であり、好ペースで走ることができればまだまだ入賞のチャンスはあった。
【L44】(1:21.486/PB)
【L45】(1:21.880)
PIT「ストラット11、T9エイペックススピードを上げろ。HADは21秒台後半に上げた」
【L46】(1:21.764)
TSU「もうデグを感じている、高速コーナーでプッシュはできない!」
PIT「COPY」
前のBORの方がペースが良く、HADに追い着いていく。角田は離されるが、HADがBORを抑えたことで48周目辺りには再び前の2台が見えてくる。
【L47】(1:22.394)
TSU「プランA?B?」
PIT「プランAだ。T1でもっとロールブレーキをしろ」
角田はプランB、つまりここから2セットのソフトを使ってプッシュのレースなのか、最後までソフトを保たせるプランAなのかとウッドに尋ねる。オーバーテイクが難しいサーキットだけに、チームとしては一貫して1ストップ作戦のプランAで走り切ることに比重を置いている。
【L48】(1:22.155)
PIT「高速コーナーはベター。これを続けていけ」
【L49】(1:22.258)
PIT「OK、(T1の)ロールブレーキはベターになった」
49周目にもなると前のHADとBORが目の前に近付き、2ストップ勢に抜かれてロスしたOCOも7秒差まで縮まる。
【L50】(1:22.068)
PIT「ブレーキオフセット-1をレコメンド、ブレーキスリップを抑えるために」
PIT「後ろALBは21秒前半、今(ギャップは)7秒」
【L51】(1:22.028)
PIT「T1、2、3で前の連中より速いぞ」
PIT「オフセットのレコメンドは-1、テレメトリー上では+1になっている。レコメンドは-1だ」
テレメトリー上でブレーキング時にタイヤがスライドしていることを見て、ウッドからはブレーキバランスを後ろ寄りにすることをレコメンド。角田は「-1」と指示されたが誤って「+1」にしており、ウッドから再修正の指示が出る。
前走車たちよりも低速域で速く走ることができているとフィードバックし、角田を鼓舞する。
【L52】(1:22.013)
PIT「T4〜5〜6でも強いぞ」
PIT「後ろはSAIになった、21秒台前半」
【L53】(1:21.977)
PIT「T3出口とT4〜5〜6でSAIの方が速い」
TSU「XXXXXXX(雑音)」
PIT「ストレートでメッセージをリピートしてくれ」
ウイリアムズは2ストップ作戦のSAIを先行させて追いかけさせる。
TSUからの無線は依然として声を充分に拾っておらず聞き取りづらいため、ウッドが改めて伝えるよう指示するが角田からの返答はなかった。
【L54】(1:22.073)
PIT「SAIが5周で追いついてくる」
【L55】(1:22.365)
PIT「SAIは20秒台後半にペースが落ちた」
【L56】(1:22.288)
PIT「SAIがドライブスルーペナルティを科された、あと2周で消化しなければならない」
PIT「温度が上がっているからT4、T12で50mリフトオフしてくれ」
【L57】(1:22.230)
PIT「SAIがピットイン。後ろはALBになった。21秒台中盤」
11周フレッシュなソフトタイヤを履くSAIに追い着かれて苦しい状況に追い込まれることが確実な展開だったが、ピットリミッター不調による速度違反ペナルティで後退を余儀なくされ、角田にとっては幸運だった。
【L58】(1:22.092)
PIT「VERとのメインロスは高速コーナー、ここからマネージメントを下げろ」
【L59】(1:22.107)
PIT「高速コーナーは良くなった。T7、T10でまだ少しロスがある」
【L60】(1:22.395)
PIT「後ろのALBは21秒台前半、メインロスはT3出口高速コーナー」
【L61】(1:22.191)
PIT「温度マネージメントはよくやっている、これをやり続けろ」
【L62】(1:23.587)
PIT「数値上は高速コーナーでアンダーステアが出ている、ディスプレイ5ポジション3、高速デフを下げる。残り10周だ」
【L63】(1:22.853)
PIT「グッジョブ! 前のクルマを抜けばポイントだ、LET’S GO」
残り14周となった58周目からは高速コーナーでのマネージメントを抑えてペースアップの指示。マネージメントの度合いはテレメトリーでタイヤのスリップ度合いを見ながら、タイヤに掛かる負荷を考慮して「まだ少しロス」といったように指示して調整している。
前のHADとBORに追い着いているため、レース序盤のようにパワーユニットの温度が上昇するリスクがあるものの、ストレートエンドでリフト&コーストしてこれを上手くコントロールしている。
62周目には高速コーナーでのデフも調整し、さらに挙動を改善。リアタイヤのデグラデーションが進んでフラフラのHADに追い着き、最終コーナー脱出のトラクション差を生かして63周目のターン1で一気にオーバーテイクし11位に上がった。
【L64】(1:22.132)
【L65】(1:21.704)
PIT「BORが君より速いのはT10、T13だけだ」
PIT「後ろにNOR、その後ろのALBに抜かれないように気をつけろ」
ウッドはBORとの比較を伝えつつ、首位NORが近付きつつあることを伝える。まだブルーフラッグが振られる距離ではないが後ろのALBが対象になった時点で先回りして伝える配慮を見せている。
【L66】(1:21.917)
【L67】(1:21.680)
PIT「残り5周だ」
【L68】(1:21.672)
PIT「OK、モード5」
残り4周でモードを変更し、バッテリー使用を優先のモードに。最後にバッテリー使い切ってプッシュする。
【L69】(1:26.739)
PIT「BORとのロスはT3のエイペックススピードだけだ」
PIT「T12でイエロー、T13でダブルイエロー」
PIT「VSC、VSC。ストラット10、ストラット10。リチャージオン、リチャージオン」
ターン15でSAIがスピンして右リアをウォールにヒットしてストップ。VSCが出され、BORに対するアタックは一時中断となる。
【L70】(1:44.871)
PIT「リスタートに向けてモード3、モード3」
PIT「T12はまだイエロー、T12クリア、VSC ENDING、T13はまだダブルイエロー、ダブルイエロークリア、リチャージオフ」
【L71】(1:21.899)
PIT「ファイナルラップだ」
70周目のターン16でVSC解除。1周だけ勝負の時間は残されたものの、2.626秒届かなかった。
【チェッカー後】
PIT「リチャージオン、フェイル84フェイル、フェイル84。戻ってくる間にピックアップしてくれ」
TSU「簡っっっっ単にポイントが獲れたはずのレースだった!」
PIT「もうひとつフェイル10、フェイルOne-Zeroフェイル。あぁ、そのメッセージ了解、君はチームのためにとても良い仕事をした」
TSU「理解できないよ、Yeah, I mean, 僕らは文字通りポイントを自ら捨てたんだ」
PIT「」
チェッカーの瞬間、角田は首を左右に振ってフラストレーションを露わに。レース後の取材に対して語ったのと同じように、確実に獲れたはずのポイントを自ら逃してしまったと怒りを露わにした。
ピットミスよりステイアウト判断に対しての怒りだろうが、戻ってくる間もT16でも、パルクフェルメでも、怒りは収まらなかった。
前編でも紹介した角田のウッドの微妙なやりとりと齟齬に気付いたときに、角田がどのように理解し受け入れるのだろうか。
(text by 米家 峰起 / photo by Red Bull)





順調に改善していっていただけに、今回のやり取りの拙さは残念に感じてしまいました。無線の不調、本人の精神状態、チームとしての苦戦、まぁ色々と要因はあるのでしょうが、レースの結果以上にこういう対身内の部分の方が残留できるかに影響しそうで途端に心配になってしまいました…。素人の戯言ですが。
コクピットの中という極めて特殊な環境とは言え、急にスイッチオンみたいになってしまうのはまずいですよね。特にチームは「味方」であり、自分のために働く人ではなく自分がその一員、自分が結果をもたらすべき対象なのだという意識が、やはり足りていないことが根底にあるような気がします。
ブチギレしてしまうとパフォーマンスにも影響するのは実感していたはずなので,今回のRUSとかマイアミのHAMみたいに「後ろの奴にもポジションを譲ろうか?」みたいな皮肉は言わなくていいですけど,PIAみたいにブツクサ言う程度に抑えてもらえないかなあと思いました.
リチャード・ウッドのコミュニケーションが完璧だとは言わないけど、彼の側に全ての原因があるわけではないし、一部だけを切り取って「こんなこと言ってた!ウッドはクビ!」では解決しないんですよね。むしろ「よくこんな言われ方して折れないでレコメンドし続けてるよなぁ」とレース後半は聞いていて辛かったです。。。
角田君の無線からは焦りと苛立ちが伝わって来ますね。
コミュニケーションとしては双方至らない所もまだあり、所謂阿吽の呼吸でいけない部分が多い事は経験と時間がまだ足りない所が影響していると感じます。
ただ自分がウッドなら早々に心折れてしまいますが、リコメンド出し続けてる姿に彼なりに何とか改善しようとしている気概は感じます。
ドライバー経験は無いので実際の所は分かりませんが角田君にはコクピット内という環境を差し引いても冷静さを持てると一段上に行ける可能性があると勝手に思ってます。
ただコミュニケーションする上の前提として無線の通信障害はいつまで続くのかって感じですが他のドライバーでも起こっているのでしょうか?いつも同じ事に遭遇してる様な。
もう既にハジャ昇格は決まっていて、伝えているんじゃないですかね?
それか匂わせているか?
もう引っ張るのはやめて早めに解放してくれたら
次のことも考えやすいのに、そのあたりがフラストレーションに繋がっているのでは?
どちらにしろ残念ですね。