REPORT【報道】

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 チーム売却が決まったケータハムF1チームだが、その設備とはどのようなものなのだろうか? イギリスのリーフィールドにあるチームのファクトリー内をご紹介しよう。350人のスタッフとともに充実した設備を誇り、F1チームとしてどのような価値を持っているのか、ご覧頂きたい。

 

 ケータハムF1チームが本拠地としているリーフィールド・テクニカルセンターは、かつてトム・ウォーキンショウが率いたアロウズが使用していた施設で、その後は2006年からスーパーアグリが使用していたことでも知られる。ケータハムは2010年のF1参戦当初は母体となったF3チームのイギリス・ヒンガムにある施設を使用していたが、2011年にルノーとの提携を強め資本が投入された際にこのリーフィールドの施設へと拡張した。ファクトリー内の様々な最新機器も、このときに購入して充実させたものだ。

 

 

【レセプション】 

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 リーフィールド・テクニカルセンターにはケータハムF1チームを初めとしたトニー・フェルナンデスが所有するケータハムグループの各部門が入居している。市販車部門のケータハムカーズ、GP2部門のケータハムレーシング、一般技術部門のケータハムテクノロジーなどだ。とても陽気なスージーさんが出迎えてくれる。

 

 

 【デザインオフィス】

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 デザインオフィスでは空力部門、メカニカル部門など各部署のデザインエンジニアがデスクを並べてCADで作業を行なっている。ここで設計したCADデータをCFDにかけ、有効なものを3次元モデル化して風洞にかけ、性能が確認されたものを実戦に投入していく。

 

 

【ラピッドプロタイピングマシン】

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  ラピッドプロトタイピングマシンと呼ばれるこの装置でCADデータから実際にそのパーツを成形する。ごく薄いプラスティック樹脂をレーザーで削り出したものを何層にも重ねてデータ通りの形状を成形することができる。いわゆる3Dプリンタの高速・高性能版だ。

 

 

【モデル作業エリア】

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  モデルショップでは風洞実験で使用する60%スケールのパーツを製造している。ラピッドプロトタイピングマシンで製造した樹脂製パーツのままのものもあれば、カーボンや金属で製造されたものもある。こうした製造の手間やコスト、風洞実験時間が限られていることを考えても、設計段階やCFDの段階で確実にパーツを絞り込んでおくことが重要だということが分かる。

 

 

【パターン作業エリア】 

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  風洞実験で効果が確認され実戦投入が決まったパーツ製造は、パターンショップから。カーボン樹脂強化プラスティック(CFRP)でパーツを製造するための“型”を作る作業だ。CNCマシンでCADデータに基づいてレジン樹脂から100%スケールのパーツの形状を削り出す。

 

 このレジン製パーツから“型どり”をして実際にCFRPでパーツを製造する際に使用する“型”を作るのだ。いわゆる雌型だ。

 

 

【コンポジット部門】 

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  雌型にプリプレグと呼ばれる硬化する前の文字通り布状のCFRPを貼り込んでいく。CFRPはいわゆるカーボン(=炭素)そのものとは異なり、糸状の炭素で編んだ布であり、その編み目の細かさや編み方、厚みによって細かく仕様が別れている。当然パーツ製造の際にもそれぞれの箇所に適したものとそうでないものがあるため、どこに何を使用しどのように重ねるのかは設計段階でエンジニアによって決められている。 

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 プリプレグの張り込みが完了すると、真空パックを施してオートクレーブ(窯)に入れる。135度、6バールの高温高圧状態で2時間半加圧することでCFRPが硬化して、我々が見慣れたカーボンパーツの状態になる。

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 オートクレーブでの加圧が完了すると、美しく仕上がったCFRPを型から外し、余分な“バリ”を削ってパーツを成型する。

 

 

【ペイント部門】 

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 完成したパーツはペイントショップで塗装される。パーツ表面に下地処理をしたあと、ペイントブラシ(噴射量が自在に調整できるスプレー)を使って複数回に分けて塗料を吹きかける。なるべく薄く軽く、なおかつ美しく仕上げるためだ。白や黄色など薄い色を美しく発色させるためには、下地としてピンクなどを塗布してから塗装する場合もあるという。F1マシン1台全体を1人で塗装すると、140時間かかるという。

 

 

 【パーツ保存庫】

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 パーツはこのように保存されている。もちろん全てのパーツがID番号で管理され、チームのデータベース上でどのパーツがどれだけ使用履歴がありどこに保管されているかも一元管理されている。サーキットに持ち込むトランスポーターの中にも同様のスペアパーツ保管庫があり、これも通信回線を通じてデータベースと連携して管理されている。なお、トランスポーターでサーキットに持ち込むのは3〜5台分のスペアパーツだ。

 

 

 【レースベイ(ワークショップ)】

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 こちらがレースベイ。マシン本体の整備を行なう場所で、ワークショップと呼ばれることもある。レースが終わるとトランスポーターでマシンがここに運び込まれ、まずはメカニックたちが全てを解体して全てのパーツをチェックする。そして次のレースまでには再びマシンが組み上げられ、トランスポーターに搭載されてサーキットへと向かう。

 

 

 【品質管理部門】

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  CFRP製に限らず全てのパーツは製造後に非破壊検査や重量計測などを行ない、ID番号を付して使用距離が管理される。同じパーツでも数グラム単位の僅かな誤差は生じるため、もちろん少しでも軽いものをレース本番用に使用し、そうでないものはスペアパーツに回す。

 

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  実際に使用されたパーツは全て、マシンから取り外された際にQC(品質検査)部門で検査を受ける。このように蛍光塗料を塗布して光を当て、表面に傷がないかをチェックするほか、非破壊検査で構造に問題が起きていないか、素材や品質に変化が生じていないかなどが確認される。

 

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 鉄製パーツには磁化していないかのチェックも行なう。パーツが磁気を発するようになると、そのノイズがコンピュータなどの作動に悪影響を及ぼすようになるからだ。

  

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 CFRP製のコンポジットパーツには超音波検査を行ない、内部構造に異常がないかを確認する。さらにR&D部門で構造疲労検査も行なう。

 

 

 【R&D部門】

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 R&D部門の7ポストリグ。4輪を乗せた台が動くことで路面に対するサスペンションの動きを再現し、マシンの前後ウイングと中心部に上から荷重をかけることでダウンフォースの発生量も再現する。これにより実際の走行時と同じ状態を再現することができる装置だ。

 

 実際の走行時に収集したデータを入力して全く同じ状態を再現するほか、セッティングの変更を施してそれがどのような影響を生み出すかをシミュレーションすることができる。上位チームは金曜フリー走行の終了後にそのデータをこのように活用してファクトリーで翌朝までシミュレーションを重ねてセットアップ変更の答えを見つけ出すことも少なくない。

 

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 これがケータハムのレーシングシミュレーター。マシンのモノコックに180度スクリーンをセットしたもの。

 

 コンピュータ上で正確にマシン挙動を再現するだけでなく、6ポストリグで前後左右上下に筐体が動き物理的にもマシンの挙動を再現する。実際には走行中のような強力なGフォースは生み出せないが、ターンインやブレーキングなど“きっかけ”の部分の動きを再現することでドライバーがそれに近い感覚を得ることはできる。

 

 ドライバーがサーキットに慣れるためというよりも、マシンセットアップなどの面で必要不可欠な存在となっている。なお、ひとつのサーキットの詳細データだけで数百万円もするというシロモノだ。

 

 

 【ファブリケーション部門】

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 ファブリケーション部門ではラジエターや排気管、オイル配管などの金属部品を製造している。このあたりはまだまだ人間の手作業に頼る部分で、メカニックの経験と勘がものを言う部分でもある。

 

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 マシンショップでは工作機械を使用して金属部品の加工を行なう。手作業では行なうことが難しい工作でも、こうした精密機器を利用すれば作業精度も効率も飛躍的に向上する。

 

 

 【スーパーコンピュータ】

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 ケータハムはデルとインテルからスーパーコンピュータの供与を受けており、12時間で100億回の計算が可能な演算処理能力を誇るHPCを使用している。一般的なコンピュータなら5カ月かかる演算を12時間で行なうことができるという。

 

 スーパーコンピュータはF1チームの開発に不可欠なCFD等の処理能力に直結するため、性能が高ければ高いほどチームの開発効率も上がることになる。そのため多くのチームがこのようにしてコンピュータ企業と提携して常に最新の高性能スーパーコンピュータを使用できるよう環境を整えているのだ。

 

 

 【グラフィックス部門】

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 グラフィックス部門ではマシンのカラーリングをデザインするとともにスポンサーロゴをカッティングシートから切り出し、これをパーツに貼り付けてようやく完成となる。

 

 

 【ロジスティクス部門】 

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 トランスポーターはパドックでエンジニアたちのオフィスともなる3台に加えて、ピット資材輸送用とモーターホーム用まで合わせて7台が使用されている。輸送する資材は30トンを超え、F1という世界で戦うにはいかに膨大な物量が必要かということが分かる。

 

 

【ケータハムレーシング(GP2チーム)】 

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 GP2を戦うEQ8ケータハムレーシングもこのリーフィールドに本拠を置いている。今季からは2輪のMoto2チームも加わった。

 

 

 こうして見てきたような設備は、他チームがファクトリーに保有しているものとほぼ同じだ。もちろん機材の性能や新しさ、数などはチームによって異なり、上位チームになればなるほど高性能な設備を取り揃えている。特に日本製の高性能工作機械が必要不可欠になっているようだ。また、特に上位チームではR&D部門がケータハムとは比べものにならないほど充実しており、様々なシミュレーションを計算上だけでなく物理的にも行なうことができる。中団以下のチームは風洞も外部のカスタマー風洞を使用するが、上位チームは60%以上のスケールの高性能風洞を自社保有している。

 

 いずれにしても、F1チームがたった2台のマシンを走らせるためだけに膨大な設備を必要としていることはお分かり頂けたのではないだろうか。

 

(text by 米家 峰起 / photo by Caterham)

 

 

 

 

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Comment

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  • コメント (2)
  1. bule
    • bule
    • 2014年 7月 04日

    こんなにいっぱい人もいて、設備も整っているのに、マシンに進化がみられないのが不思議ですw

    • MINEOKI YONEYA
      • MINEOKI YONEYA
      • 2014年 7月 07日

      【解説】記事を読んで頂けると、その理由が分かるかと思います。今まで書きたくても書けなかった部分を書いてます。

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