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【スペインGP・現地直送便】ホンダ“モーターホーム騒動“の顛末

【スペインGP・現地直送便】ホンダ“モーターホーム騒動“の顛末

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 スペインGPに登場したホンダのモーターホームを巡って、パドックではちょっとした騒動が起きました。インターネット上でも一部で話題になりましたが、ホンダのロゴやカラーリングが一切ない不思議な外観であり、当初は掲げられていた本田宗一郎さんの肖像写真が取り外されたり、チーム関係者以外への対応が冷たかったりと、通常のモーターホームとはかなり異なる不穏な動きを見せたのですが、その背景にはある理由があったのです。

 

 まず、モーターホームやトランスポーターなどが並ぶパドック内のスペース割り当ては、全てFOM(フォーミュラ・ワン・マネージメント)が管轄しています。そして、本来であればホンダはモーターホームを置けないはずなんです。

 

 そもそも、ホンダはひとつのエントラント(参加者)として存在しているわけではありません。『マクラーレン・ホンダ』というエントラントとしてF1に参戦しているのであって、ルノーのように2チーム以上にパワーユニットを供給していないホンダには、単独のサプライヤーとしてモーターホームを置く権利はないのです(ルノーはモーターホームを構えています)。

 

 しかし、昨年来モーターホームの準備を進めていたホンダ(研究所ではなく青山本社)はFOMとの交渉によって特別にモーターホームを設置・運営する許可を得たわけですが、「ホンダ」というエントラントが存在しない以上、その名前を掲げることは許されていないようです。これまでのシーズン序盤フライアウェイ戦でも、ホンダはマクラーレンとは別にホスピタリティユニットをFOMから借りて使用していましたが、そこにもホンダの名前は掲げることなく「FOM PARTNER」という名目で運営していたのでした。

 

 さらにFOMは、スタッフ以外の人間に食事を提供することは許可していません。ですから、メディア関係者がやって来ても「お茶やお茶菓子くらいは出せるけど、食事はちょっと……」ということになってしまいます。本当は出したいところではあるけれど、FOMの顔色も窺いつつ、用意する食材数も考えて……ということで、初回のバルセロナではかなり抑えめの活動に留めたというのが実際のところだったようです。別項にも書きましたが、“スナック”(つまりサンドイッチなどの軽食)くらいなら提供しても良いようなことはFOMから言われているらしく、寿司は本来はファストフードだからというこじつけで提供したいというようなことも考えているようです。

 

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 こんなことになってしまったのは、前記のような理由から大々的な運営が許されていないということもでもありますし、もっとぶっちゃけて言えば、「ゲストをもてなしたいなら(FOMが販売している)パドッククラブのチケットを買え」ということです。実際のところ、ホンダは毎レース数枚ないしは1テーブル分(10枚)のパドッククラブチケットを購入させられているようです。

 

 じゃあそんなにゲストはいるのか?というと、実はいません。というのも、前述のようにホンダは単独のエントラントではないので、ホンダとしてのスタッフパスはおろか、パドックVIPゲストパスは存在しないからです。スタッフを追加するにもゲストを呼ぶにも、マクラーレン・ホンダのパスを使用しなければなりません。今年からゲストパスの数が大幅に制限されたこともあり、その枠にはかなり限りがありますから、基本的にホンダのゲストはほとんどいないんです。開幕戦のオーストラリアには新旧社長を始め取り巻きの方々がいらっしゃっていましたが、その後はゲストはゼロ。GP2のアドバイザーとして現地に来ている鈴木亜久里さんや松浦孝亮選手にもF1のゲストパスは与えられていません。

 

 じゃあそんなにたくさんパドッククラブのパスを買ってどうするの?というと、スタッフや亜久里さん、孝亮選手がお昼ごはんを食べたり休憩するのに使っているくらいでしかありません。そして、あれだけ豪華なテーブルセットに寿司セットまで用意したモーターホームはどうかというと、さらに少ないマネージメント系スタッフだけが利用しているというのが現状。ホンダのエンジニアやメカニックたちはマクラーレンのモーターホームでマクラーレンの食事を食べることになっていますから。深夜遅くまで作業をしたときには彼らのために夜食を用意しておいて、スタッフたちはそれをホテルに持ち帰って食べていたそうですが……。

 

 いずれにしても、現状の使い方では“壮大な無駄遣い”と言われても弁解の余地はないように思われます。肝心のレースの方できちんと成績が出ていれば「さすがの余裕」とも言えるのでしょうが、研究開発にも相当な費用がかかっていますし、本業である市販車販売の業績が苦しい今の状況下では関係各所の理解が得られるはずもなく、今回のモーターホームが少し騒動になっていてその内状が明るみになったことで青山本社でも問題視する声が上がったといいます(ちなみに、新井さんをはじめとしたホンダのエンジニアやメカニックたちは青山本社ではなく技術研究所の人たちですから、モーターホームとは無関係です)。

 

 僕は木曜の昼前にご挨拶に伺った際に“塩対応”だったとツイートしましたが、日本人メディアが来ているのが見えているはずなのに、ホンダのスタッフは見て見ぬ振り……みたいな感じでした(挨拶してくれたのはモーターホームで働くデイブの奥さんだけ)。言葉で表現するのは難しいですが、モーターホームというのはスタッフもみんな温かく歓迎してくれるものですし、あの時のホンダのモーターホームはちょっと普通のチームのモーターホームではあり得ない雰囲気だったわけです。

 

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 しかしその背景には前述のような事情があり、メディアが大挙してやって来て注目されたりあちこちで写真が配信されたりするのは困るというわけで、あの塩対応だったわけです。木曜の午後には運営スタッフが「宗一郎さんの写真を撮られないようにしろ」と通達され、夕方にはひとまず入口の脇に「Staff Only」という貼り紙をして、宗一郎さんの写真も外した(実際には白いカバーを被せて隠しただけ)というわけ。「Staff Only」の貼り紙は金曜には取り外されていましたが。

 

 熱田護カメラマンが「写真を撮るなといわれた」とツイートして話題になってしまいましたが、ホンダのスタッフ曰く、モーターホームの完成が直前にずれ込み、直前まで設計図でのやりとりしかしていなかったので、実際に現場に来てこんなに大きな写真が飾られているのを知ってビックリした、ということでしたが、壁一面に写真がプリントされているだけに配線のために穴を開けた箇所もあったらしく、「宗一郎さんの写真にこんなことをしてはいけない!」ということで隠したとのこと。それが事実なら、次のモナコでは別の形で復活すると思いますが、これだけ騒動になってしまうとちょっと変に気を遣ってしまうでしょうし、難しいかもしれませんね……。

 

 それこそ、宗一郎さんも怒って天国からスパナを投げてくるんじゃないかなぁ……。

 

(text and photo by 米家 峰起)

 

 

 

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